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赤いリボンに包まれている女性のイラスト

美しくあることは技術 今日からできる「美しさの癖づけ」

いくつになっても思うのが「美しくありたい」ということ。

でも、美しさって何なのかと問われると、正直よくわかりません。若々しいこと? 見た目が綺麗なこと? それとも、周りの人から愛される姿かたちのことでしょうか?

自分が望む「美しさ」はどこにあるんだろう。
そしてそれは、どうしたら身につくのだろう。

この連載ではそんな問いを携えて、「美しさ」にまつわるさまざまな人にインタビューしていきます。

今回お話を伺ったのは、長年わざわざ代表・平田の身体のメンテナンスを担当している、わたなべあきこさん。長野県でリフレクソロジーのサロン『樂壷(らくつぼ)』を経営しつつ、大学で心理学、大学院で発達科学を学び、心の面からも健康にアプローチされています。

平田さん曰く「あきちゃんはいつ会っても健やかで『美しい』と感じる人」とのこと。

その美しさはどこから生まれているのか、美しくあるために何ができるのか、そんなことをわたなべさんに伺うと、「素直であること」「自分を知ること」というキーワードが現れました。

あなたにとっての「美しさ」とは、どんなものでしょうか?

  • 執筆:土門蘭
  • 編集:あかしゆか
プロフィール:
わたなべあきこ
東京生まれ、長野育ち。幼い頃から冷えなどいくつかの体調不良に悩み、社会人になってリフレクソロジーに出会う。養成講座で技術を修得後、自身も教える立場になり、教えの実践の場としてサロン『樂壷』を開店。以降20年以上にわたり、身体のメンテナンスを手伝う仕事に携わる。その中で心のケアの必要性も感じ、心理学を学ぶため大学に入学。現在は大学院で発達科学を学びつつ、社会福祉協議会で子供や地域の人の居場所づくりの仕事も行っている。
※現在サロンは新規予約を停止中です。

「身体の癖」は「心の癖」から生まれている

──わたなべさんは、平田さんの身体のメンテナンスを長年担当されているそうですね。平田さんが「とても美しい人」だとおっしゃっていましたが、本日はそんなわたなべさんに「美しさ」について伺えたらと思います。まず、普段はどのようなことをされているのでしょうか?

わたなべ:今は主に3つの活動をしています。1つ目は、20年以上やっている「体のメンテナンス」をお手伝いする仕事。2つ目は大学院で心理学の勉強を、3つ目は社会福祉協議会で子どもや地域の人たちの居場所づくりをしています。

──身体のことだけではなく、心や社会のことにも携わっていらっしゃるんですね。

わたなべ:私自身10代の頃から、病気とまではいかないまでも、冷えなど体の不調がたくさんあったんです。それを改善できる方法はないかと思っていた時に、リフレクソロジーに出会いました。技術を修得していろいろな方の身体を見せていただくうちに、「身体だけ見ていても人は健康にならないな」ということを強く感じるようになったんです。

──とおっしゃると?

わたなべ:身体の状態には、その人の「使い方の癖」が出ます。じゃあその癖はどこから来ているかというと「考え方の癖」なんですね。

たとえば以前、身体の左半身だけが凝り固まっている方がいらっしゃいました。その凝りがどこから来ているか探ってみると、普段の仕事の操作端末がすべて左側にあることがわかったんです。

そういう時、素直な方であれば「じゃあ明日からは身体ごと左に向けて仕事をしよう」など、具体的な解決法にすぐたどり着きます。だけど考え方が凝り固まっている方は「でも、端末が左にあるからどうしようもないんです」とおっしゃって、改善までに何年もかかってしまう。実は多くの方が後者の状況にあることに気づき、それをどうクリアするかは「心」の領域だなと感じるようになりました。

 

こころとからだはつながっている

──なるほど。そう考えると、身体の凝りは思考の凝りから来ているのかもしれないのですね……。

わたなべ:そうなんです。体の使い方の問題とは別に、考え方の癖、つまり心の問題を別で解決しないと、トータルな健康には繋がらない。それが長年私の課題意識としてありました。それで6年前に心理学を学ぼうと大学に入り、今は大学院で発達科学を学んでいます。勉強を始めてからは、それまで施術において感覚でやっていた心に対する洞察や言葉がけが、理論でちゃんと補強された気がしますね。

──では今は、身体と心、両面からメンテナンスをされているのですね。

わたなべ:はい。私は、体を良くするために1番のベースになるのは「心」であり、キーワードは「素直さ」だと思っています。多くの方が体の不調を感じたとき、他人に手当やマッサージを求めますが、それだけではなく、まずは不調の根っこに気づいて「自分で自分の体を整える」こともしていただきたいなと思っているんです。

日常の中の簡単なことでいいんですよ。左側に重心がかかりすぎているのであれば、意識して右に少し戻してみるとか。そんなちょっとしたことを積み重ねることで、体の具合がこんなに違うんだと知ってもらいたい。それに気づくと、もう少し自分に興味が湧いて、いい変化になると思います。

「健康」とは、「自分がありたい姿であること」

──今回は「美しさ」について伺いたいのですが、それと切っても切り離せないのが「健康」だと思うんです。これまで多くの方の心身に触れてこられたわたなべさんですが、「健康である」とはどんな状態だと考えていらっしゃいますか?

わたなべ:WHOでは健康の定義を「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態」としています。

だけどそれで言うと、健康な人っているのかな? って思いますよね。「肉体的に完全に良好」って時点でかなりの人が弾かれるし、そこに精神的、社会的も加わると……。

──かなりハードルが高い気がしますね。

わたなべ:私としては、持病のある方でも他の要素に注目することで「健康」だと捉えられると思っています。

「健康」の要素として一番大きいのは、病気の有無よりも、「自分がどうありたいか」。病気は病気として治療しつつ、それに臨むその人の「あり方」がもっとも健康に関係するだろうと考えているんです。

──つまり「健康」とは、「自分がありたい姿」である状態、ということでしょうか?

わたなべ:はい。「自分がどうありたいか」をわかっている人は、今の自分自身をわかっている人です。だからこそ、自分の「考え方の癖」に気づいて直していくこともできる。その結果、健康であれるんだと思います。

──お話を聞きながら、私は「自分がありたい姿」がよくわかっていないなと思いました。そもそも「私自身は健康なのかな?」というと、おそらく健康ではないと思うんですね。私の場合緊張が強くて、肩こりが酷かったり、よく眠れないことが多いんです。それがずっと治らないのは、思考の癖から来ているからなのかもしれません。

そんな私が健康になるために「自分がありたい姿」を探すとき、わたなべさんだったらどのようなアプローチをされますか?

わたなべ:まず、不調とは逆のことを考えていただきますね。土門さんの場合、緊張が強いのであれば「何をしているときが楽しいですか? どんな時にリラックスしますか?」と。ただネガティブを封印するだけではなく、逆のポジティブなところを見つけるという作業が大事だと思います。

──緊張や不安にフォーカスするのではなく、その対極にあるものに焦点を当てて、癖を和らげていくということですか。

わたなべ:そうそう。円グラフを均等に伸ばしてあげる感じかな。その練習をしていくイメージです。そうすると、少しずつ心地いい「自分がありたい姿」が見つかっていく。

──ああ、確かにそうすることで「自分がありたい姿」が少しずつ見えてきそうな気がします。緊張が強すぎず、ちゃんとリラックスもできる自分。

わたなべ:「気分」って性質や性格によって生まれる癖だと思うのですが、健康であるため、幸せであるための「あり様」って技術だと思うんですね。「自分を幸せにする技術を学ぶ」ということが、健康になる方法ではないかと思います。

だけど、ほとんどの人はそんな練習したことがないと思うんですよ。歩き方を習わないのと同じで。でも習ったり練習したりすれば、技術は磨かれて上手になるはずですよ。

椅子に座るとき、脚はどうなっている?

──その技術を磨くには、日常の中でどんなことを意識すればいいでしょうか?

わたなべ:まずは「自分を観察する」ことですね。たとえば重心をどこに置いているのか、どっちの脚をよく組むのか、お尻は左右どちらが大きいのか……。身体はとても優秀なので、バランスが崩れると反対側の動きを無意識にします。それを自分で観察して、癖に気づくところから始めてみてはいかがでしょうか。

ささいなことでもいい。「自分を知る」ことから

──あらためて考えると、私の場合は右脚をよく組むかもしれません。

わたなべ:それは楽だからしていることなんですよね。だけどそれが続くと癖になり、いつか痛みになります。楽は悪いことではないけれど、あくまで息抜き。それがメインになると転落します。長期スパンで見ると後々大変なことになるんですよね。

たとえば椅子に座る時、膝小僧をくっつけて座る人ってとても綺麗ですよね。みんなそうすると綺麗なのはわかっているけど、「楽だから」という理由で脚を開いて座りがちです。若い頃はそれでいいとしても、足をパカッと開いて座るのを続けていると内腿の筋肉が弱くなって、50代くらいで尿漏れしやすくなるんですよ。

──えっ!? それは怖い!

わたなべ:今のはショック療法です(笑)。でもそれを知ると、座る姿勢を変えないとって思いますよね。気づいた時に膝小僧どうしをくっつける。 それだけで十分、内腿のトレーニングになりますよ。

──今試しにしてみていますが、1分経たないうちでもプルプルします。

わたなべ:そうでしょう? 美しい姿勢は、実は理にかなっているんです。たとえば姿勢をよくするには腹筋が必要ですが、腹筋はお腹の内臓を支えるサポーターみたいな役割をしているんですよ。それを「楽だから」と使わずに猫背になっていたら、内臓はちゃんと働かないし、胸も必要以上に垂れてしまう。そう思うと、自然と腹筋に力が入って姿勢がよくなりませんか?

──なります! きちんとその姿勢に意味づけがされると、意識してしようと思いますね。

わたなべ:暮らしの中で必要な筋肉は、暮らしの中で意味づけて、トータルに鍛えていく必要があるんです。ジムに行って特別なトレーニングをしなくても、日常生活の中で十分鍛えられます。その姿勢が日常になるということが、美しい人なのだと思います。

良い方、美しい方にまた癖をつけていく

──先ほどの「健康」の話と今の「美しさ」のお話は繋がっているように感じます。楽な姿勢ばかりしていると、癖になって不調が出る。「自分がありたい姿」であるためにその癖をとっていくことが、健康や美しさに繋がるのかな、と。

わたなべ:「良い方・美しい方に、また癖をつけていく」みたいな感じですね。最初はしんどいと思うけど、気づいた時点で癖を変えていけば、もうその時点から美しい方へのルートを歩み始めている。

するとある時逆転して、美しい姿勢の方が楽になってくるんですよ。そうなったらもう、戻ることはめったにない。美しい姿勢でいることが基本になって、楽な姿勢は本当の意味で息抜きになります。

──トレーニングと聞くとちょっと構えてしまいますが、「美しさの癖づけ」と聞くとやる気が湧いてきますね。わたなべさんご自身は、暮らしの中で美しさを癖づけするために意識していらっしゃることはあるんですか?

わたなべ:体の面ではもうだいぶ癖づけされているのですが、気持ちの面でも美しさの癖づけが必要だと思っていて、言葉遣いや表現方法は日々意識しています。

だんだん歳をとるにつれ、人って顔や姿に内面が出てくるじゃないですか。そう考えると、発する言葉もまた美しさに関わってくるなと思ったんです。私が気をつけているのは、なるべく省略語を使わないとか、禁止や否定の言葉を使わないとか。どう言い換えると美しいかなと、毎日気をつけています。

──それはすごく素敵です。最後に、自分は今日から何ができるだろうと考えた時、自分にとっての「ありたい姿」「美しさ」が思い浮かばない方も多いのではないかと思っていて。それを自分で見つけるにはどうしたらいいのでしょうか。

わたなべ:「自分が何を大事に思っているか」を、一度整理してみてはいかがでしょう。人の価値観ではなく、「自分は何をいいと思い、何を心地よいと思うか」を知ることですね。そうすると自己とその他の区別がはっきりして、自分の軸となる「ありたい姿」や「美しさ」が見えてくると思います。その上で必要なものを取り入れて、不要なものを手放していく。その癖づけをしていけば、「いつも美しい人」になれるのではと思います。

──やはりまずは「自分を知る」ことなんですね。お話を伺っていると、健康にも美しさにも「これが正解」というものがないんだなと思いました。答えは自分の外にあるのではなく、自分の中にあるのかな、と。

わたなべ:ある意味、哲学的ですよね。私は誰もが健康や美しさの芽を持っていると思っているんです。相手が何歳であってもそれを見つけてあげることが、私にとっては大事なことなんですよね。

私は今大学院で生涯発達をテーマに学んでいるのですが、体づくりにしても勉強にしても「何歳だから遅い」ということはないんです。いくつになっても、その年齢なりの発達をするものなんですよ。だから「自分の可能性を信じること」はとても大事だと思う。そしてそれが健康に必要な「素直さ」にも繋がるのではないでしょうか。

姿勢を美しくするために、今日からできること

最後にわたなべさんに「姿勢を美しくするために、今日からできること」を伺ってみました。

「『背筋を伸ばそう』と意識しても、実際は反りすぎていたり伸びていなかったりすることがあるので、ここでも『自分を知る』をやってみましょう。

まず仰向けになって、腰の部分が床からどれくらい浮いているか観察してください。腰のところがスカスカで、手が簡単に反対側まで入ってしまう場合は、姿勢が反り返りすぎています。腰の部分が床にぴったりとつきもせず、開きすぎてもいないのがちょうどいいです。

次に壁に背中を向けて、壁から5センチほど離れたところに踵を置いて、普通に立ってみましょう。その時、自分の身体のどの部分が壁についているかをチェック。美しく立てている場合は、頭、肩甲骨周辺にある背骨の出っ張っている部分、そしてお尻がつきます。そうでない場合は調整が必要です。少しずつ、癖を直していってくださいね」

「観察するだけでもだいぶ変わりますよ」とおっしゃるわたなべさん。美しい姿勢になろうと意気込む前に、まずは今の自分の姿勢を知ることが大事なのですね。私もぜひやってみようと思います。

土門蘭

文筆家。1985年広島県生まれ、京都在住。小説・短歌などの文芸作品や、インタビュー記事の執筆を行う。著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』(寺田マユミ氏との共著)、『経営者の孤独。』、『戦争と五人の女』、『そもそも交換日記』(桜林直子氏との共著)がある。2023年4月には、2年間の自身のカウンセリングの記録を綴ったエッセイ『死ぬまで生きる日記』を上梓。同作品で第一回「生きる本大賞」受賞。

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