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歳を重ねるほど自由に。白髪もくせ毛も「個性」に変えて。

歳を重ねるほど自由に。白髪もくせ毛も「個性」に変えて。

「いくつになっても、美しくありたい」。

きっと、多くの方が願っていることだと思います。

でも、美しさって何でしょう? どうすれば身につけられるものなのでしょう? この連載では、美しくあるために必要なことをさまざまな人にインタビューしていきます。

今回のテーマは「髪」。お話を伺ったのは、新潟にある「はなこの隣の美容室 マトリカリア」の副店長・小野塚梓さんです。

わざわざの代表・平田さんは、昔からくせ毛が悩み。特に最近は、相性のいい美容師さんに出会えず困っているそう。私自身も、40代に突入してから白髪や抜け毛が気になっています。

そんな折、平田さんの友人である新潟のコーヒー店「ツバメコーヒー」の代表・田中辰幸さんが「ツバメコーヒー2号店の隣にある美容院に、理論的に髪の構造を捉えながら、髪との向き合い方を丁寧に考えてくれる素敵な美容師さんがいますよ」と紹介してくださいました。

髪を美しく保つためにできることって?髪のコンプレックスとの向き合い方とは?

そんな髪についてのいろんなお話を、小野塚さんにうかがいました。

  • 執筆:土門蘭
  • 編集:あかしゆか
プロフィール:
小野塚梓(おのづか・あずさ)
1982年生まれ。新潟県長岡市在住。「はなこの隣の美容室 マトリカリア」の副店長。美容師歴は24年。趣味は旅行と器集め。ニックネームは「おりた」。

髪の悩みも感じ方も人それぞれ

──小野塚さんは美容師歴20年以上のベテランでいらっしゃるとのこと。今日は髪について、いろいろお話を聞かせてください。まずは、小野塚さんが副店長を務めるマトリカリアさんはどんな美容室なのでしょうか?

小野塚:うちの会社は3つの美容室を運営しているのですが、それぞれお客様の年齢層が異なっていて、若い順から「オアズ」「はなこ」「マトリカリア」と展開しています。私が所属するマトリカリアは一番高年齢層で、メインのお客様は40代から50代。もちろん、それより上の年齢の方もたくさんいらっしゃっています。

──私は今年40歳なので、まさにマトリカリアさんに通い始めるくらいの年齢ですね。最近、白髪や抜け毛など、若い頃はそんなに気にならなかったことが気になってきて。年齢とともに髪の悩みが増えていくのかなと、少し憂鬱なのですが……。

小野塚:まさに、マトリカリアのお客様の中でもそんなお声が多いです。圧倒的に多い悩みは、やはり「白髪」ですね。次に、年齢とともに出やすくなってくる「くせ毛」。そして髪の細さや、パサつくなどの「ダメージヘア」。これらが三大お悩みです。

──小野塚さんはそんな悩みに対して、どんなふうに対応されているのですか?

小野塚:髪の毛のお悩みって、かなり個人差があるんです。「くせ毛で悩んでいる」と言っても、そのくせは本当になくした方がいいのか、 残したまま活かした方が素敵なのかは、その方の髪質はもちろん、生活スタイルやお手入れにかけられる時間、お金、考え方にもよります。

なのでまずは、その方の悩みを絶対に否定しないこと。その上で、悩みにアプローチする方法を一緒に考えていくことを大事にしています。悩みに対しどう取り組んでいくか、お客様とよく話し合った上で決めていくようにしています。

──確かに、髪の悩みって千差万別ですよね。肌や体型よりもずっと個別的なものだと思います。本人はすごく気にしているけど、周りや美容師さんはあまり気にならない、なんてこともありそうですよね。

小野塚:それはよくありますね。 例えば白髪なんかは顕著で、どのタイミングで気になり始めるか、本当に人それぞれなんです。1、2本表面にあるだけでも嫌だという方もいれば、全体の3割くらい白くなるまでは気にならないという方もいて。人それぞれ感じ方が違うなぁと思います。

──逆に、自分が悩んでいなくても、美容師さんに言われて初めて気づくということもありそうです。実は扱いにくい髪質であることを、美容師さんに指摘されて初めて気がついたり。

小野塚:おっしゃる通りです。時々、ご本人の見えないところに白髪や円形脱毛がある場合があるのですが、そういう時は伝え方にすごく気をつけています。自分の一言が、お客様の中に余計なコンプレックスやストレスを作ってしまう恐れもありますからね。それは美容師が特に気をつけないといけないところだと思っています。

そもそも髪のお悩みって、カウンセリング時にお客様の方から出てくることが多いんです。その上で、ここが扱いにくそうだなとか、ここの質感が変わるとスタイリングが楽になりそうだなというお話やご提案はさせていただきますが、個人的には、ご本人が気にしていない、あるいはまだ気づいていないことを、わざわざ美容師が指摘する必要はないのかなと思います。

それに髪のお悩みって、工夫次第でどうにかなることも多いんですよ。ブローの仕方、保湿やお手入れの仕方など、少し工夫するだけでグッと扱いやすくなる。その方法をお伝えすることで、お客様の心が軽くなるといいなといつも考えています。

白髪は染めないといけないもの?

──今日はぜひともその「工夫」について聞かせてください。まずは三大悩みの一つ「白髪」について、どう向き合っていけばいいか教えていただけますか?

小野塚:白髪が出来る原因として一番気をつけないといけないのは紫外線です。頭皮に紫外線が当たると活性酸素が生成されて、髪の色素を作るメラノサイトが壊れてしまい、それが白髪の原因の一つになるんです。なので帽子を被ったり、髪用の紫外線防止スプレーをパーっとかけるだけでも予防になりますよ。念のため、年中気をつけると安心ですね。

あとは食べ物。これは全髪質に共通するのですが、健やかな髪のためにはタンパク質と鉄分をとるのがおすすめです。肌と一緒ですね。

また、頭皮の血流を良くするのも効果があります。シャンプー前や、髪の毛のセットをする際など、きちんと地肌に当てた状態でブラッシングをしたり、お風呂に入っているときに頭皮のマッサージをしたり。血流が良くなると、髪を作る毛母細胞に栄養が行き渡るので、長期的に見ると白髪予防につながると思います。

──ちなみに、できた白髪についてはどう扱っていくのがいいでしょうか? 今後さらに白髪が増えてくると、毎回白髪染めをしないといけないのかと思うと気が重たくて。

小野塚:「白髪染めでしっかり染めていく」のが唯一の解決方法といったイメージがあるかもしれませんが、実はそれ以外にもいろんな選択肢があるんです。白髪の状況にもよりますが、普通のカラーで隠れる場合もあったり、むしろハイライトデザインや優しめのブリーチ剤を使いながらベージュなどの明るい色で染めてあげたり。

今まではしっかりと暗めに染めて隠すのが当たり前だったけれど、逆に白髪に寄りそって活かすデザインにするというやり方も増えてきています。

──白髪に寄せたデザイン!そんな遊び方もできるんですね。

小野塚:個人的には、4,5年前から白髪に対するマイナスイメージが少しずつ変わり、「どう隠すか」より「どう活かすか」にシフトしていっているように感じます。

その理由の一つとして、ヘアスタイルの自由化が進んでいることが挙げられるのかなと。今までは多くの職場で「6、7レベルの暗めな髪色でないといけない」という規則がありましたが、最近はどんなスタイルでもOKなところが増えてきています。そういう流れもあって、美容師が提案できる方法も増えてきているんです。

例えば、うちでは「白髪忘れ」という技術を取り入れています。お化粧でいうとコンシーラーの役割のように、白髪と黒髪のコントラストを均して、お互いが馴染む茶色くらいにしてあげるんです。その上から、アッシュやピンクなどお好みの色味を入れる。すると、白髪と黒髪が馴染んで綺麗な明るいカラーに染まるんですよ。そういった新たな技術がどんどん出てきているので、ぜひ美容師さんに相談してみてください。

──それを聞くと、歳をとるのが怖くなくなってきますね。

小野塚:そう言ってもらえると嬉しいです! 年齢とともに体の悩みやトラブルも出てきやすくなると思いますが、せめて髪の悩みについては少しでも軽くなってもらえると嬉しいですね。

くせ毛は生活スタイルに合わせて

──では次に、くせ毛の悩みについてはどう向き合えばいいでしょうか。

小野塚:一言で「くせ毛」と言ってもいろんなタイプがありますが、大きくは3タイプに分かれます。まずは、くるくるとしたパーマのようなくせ毛。こちらはあえてくせを活かしたヘアスタイルにすることも多いですね。

次に、日本人に多いと言われている波状毛(はじょうもう)。横にうねったり、雨の日に膨らんだり。この場合は、一番強くくせが出ている箇所を見極めつつ、くせを活かしたヘアスタイルにすることも可能です。

最後が、縮れた状態で広がる縮毛です。こちらの場合は、縮毛矯正をかけた方が扱いやすくなることが多いですが、保湿をしっかり行うことで少し扱いやすくなる場合もあります。

──基本的には、くせを活かしたヘアスタイルにするか、縮毛矯正をするかの二択ですか?

小野塚:そうですね。どちらを選ぶかは、くせ毛の状態はもちろん、その方の生活スタイルによるところも大きいです。くせ毛を活かすには、朝のスタイリングで髪の毛をしっかり濡らして乾かして、とか、ストレートアイロンを通して……などという一手間がいるので、それがしんどい場合は縮毛矯正も一つの選択肢ですね。

ちなみにくせ毛を扱いやすくするためには、シルクハットがおすすめです。シルクはキューティクルのダメージを減らし水分を保持してくれる素材なので、被って眠ると翌日の髪の毛が柔らかくなり、まとまりやすくなります。

あとは、朝に広がりを抑えるための保湿剤をつけて、その後さらにヘアオイルでコーティングして乾かすのもいいですよ。水分が抜けにくくなり、パサつきにくくまとまりのある仕上がりになります。

ダメージヘアはシャワーの温度に注目

──3つ目の悩みはダメージヘアですが、こちらはどうでしょうか?

小野塚:ごわついたり、毛先が絡んだりなどのお悩みですね。こちらについては、ご家庭でのシャンプー・トリートメントをダメージヘア用に変えたり、洗い流さないトリートメントを使ってみるのがいいと思います。

でも、それよりもっと手っ取り早くできるのが、シャワーのお湯の温度を下げることなんです。いつも何度くらいの温度で洗っていますか?

──40度とか41度くらいでしょうか……。

小野塚:では、試しに38〜39度にしてみてください。髪の毛って、熱めのお湯だとキューティクルが開いて水分が抜けやすくなるんです。ぬるめの温度にすると乾燥を防げて、洗い上がりが変わるはずですよ。私は寒い時はお湯に浸かりながら、頭だけ外に出して洗っています(笑)。

あと大事なのは、シャンプーで洗う前の「予洗い」です。シャンプー前にコームで髪を梳かして、時間としては1分以上、お湯でしっかり汚れや皮脂を落としてください。そしてシャンプーは、髪ではなく手の上で泡立ててから使うこと。すると泡がクッションになって、髪が摩擦で傷んだり絡まったりするのを防ぐことができます。

乾かす時には、根本から毛先に向かって温風を当ててください。キューティクルの向きに沿って逆立てない形ですね。最後に冷風で仕上げると、キューティクルが閉じてツヤが出やすくなりますよ。

──さっそくやってみます! ちなみに個人的には抜け毛も気になるのですが……。

小野塚:抜け毛は特に春と秋に多くなると言われています。夏と冬に抜け毛が少なければ問題ないのですが、年中続くようでしたら抜け毛用の美容液、いわゆる育毛剤を使うことをお勧めします。

あとは白髪と同様、普段の食生活で髪の元となるタンパク質や鉄分をとること、ブラッシングして血流を良くするのも効果的です。また、発熱も抜け毛の原因になるので、感染症にかからないよう気をつけるのも大事ですね。

またヘアスタイルとしては、実はショートやボブなどがおすすめです。短くして丸みのあるスタイルにするとボリューム感が出やすいんですよ。毛量の少なさでお悩みの方は重さを残してカットするだけで毛量が多くみえるので、今のトレンドのボリューム感を抑えた切りっぱなしボブなんかはオススメです。あとは髪質にもよりますが前髪だけパーマをかけるのも素敵です。顔周りに奥行きが出て、ふんわりとボリュームを出すことができます。

──髪の悩みって特別なことをしないといけないと思っていたのですが、今日からできることも多くて気軽に取り組めそうです。

小野塚:はい、ぜひ試してみてください!

相性のいい美容師の見つけ方

──美容室は定期的に行くものだから、美容師さんとの相性も大事ですよね。どうしたら相性のいい美容師さんと出会えるでしょうか?

小野塚:遠慮なくご自身の希望を伝えるのが一番だと思います。私たち美容師も「お客様はご自身の髪に対してどう感じていらっしゃるんだろう」とドキドキしているんですよ。さっきも話した通り、髪に対する捉え方は人それぞれなので。

例えば 「白髪は目立たせたくないけど、暗く染めたくない」とか「くせ毛は直したいけど、縮毛矯正は嫌」なんて、一見難しそうなことでもいいんです。まずはワガママなくらい意志を伝えちゃう。それに対して「じゃあこんな方法はどうですか?」と提案するのが、美容師の仕事なので、まずは素直な気持ちで相談してみてください。それに対する美容師さんの提案が自分にしっくりくるかどうかで、相性がわかると思いますよ。

──なるほど。自分がワクワクするような提案をしてくれる美容師さんに会えたら最高ですね。

小野塚:髪の悩みって、裏返せば「ここがこうなると気持ちが上がるのにな」という可能性でもあるんです。そう捉えるだけで、悩みに対する気持ちが前向きになりますよね。「この白髪はデザインに活かせる」とか「前髪のくせだけ直すと、後ろの髪のくせの見え方が変わる」とか、提案できることはいろいろあると思うので。

悩みをマイナスに捉えるだけじゃなく、どう転換させたら楽しく共存できるのか。そんなことを一緒に考えていける美容師さんが見つかると、毎日笑顔で過ごせるんじゃないかなと思います。

──ありがとうございます。最後に、小野塚さんが考える「うつくしい」とはどんな状態か教えてください。

小野塚:やっぱり、自信を持って笑顔でいられる状態ですね。自分のコンプレックスや悩みを「個性」と捉えて活かすことができれば、自分らしく歳を重ねる楽しさを感じられると思います。そんなご提案ができる美容師でありたいですね。

髪を美しくするために、今日からできること

最後に、小野塚さんに「髪を美しくするために、今日からできること」を伺ってみました。

「先ほど話した中から一つ選ぶなら、『シャワーの温度を38〜39度に設定すること』。 こんな簡単なことで、こんなに効果があるんだ!っていうくらい、髪が変わってくると思います。

熱いお湯で洗顔すると、肌が乾燥してシワができやすくなると言われていますが、頭皮と髪も一緒です。それでなくても、冬は髪の水分量が通常の3分の1まで減ってしまうので、今かの時期は特におすすめ。ちょっと寒い時は先にお風呂に浸かってから洗髪するのもいいですね。湯船に浸かって温まることで頭皮の皮脂汚れも取れやすくなりますよ。

頭皮は髪の毛の畑です。乾いた畑からおいしい野菜が生まれないのと一緒。 まずは頭皮を乾燥させないことを意識してみてくださいね」

それを聞いて私もさっそくお湯をぬるめにして髪を洗ってみたのですが、すぐにわかるくらい髪がいつもよりツルツルに!こんな風に、実は小さな工夫で解決できることも多いのかもしれません。

なんでも相談できる美容師さんを見つけて、自信を持って年を重ねていきたいものです。

土門蘭

文筆家。1985年広島県生まれ、京都在住。小説・短歌などの文芸作品や、インタビュー記事の執筆を行う。著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』(寺田マユミ氏との共著)、『経営者の孤独。』、『戦争と五人の女』、『そもそも交換日記』(桜林直子氏との共著)がある。2023年4月には、2年間の自身のカウンセリングの記録を綴ったエッセイ『死ぬまで生きる日記』を上梓。同作品で第一回「生きる本大賞」受賞。

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