売上でも流行でもなく、「よいもの」を求めて。(木村石鹸)
- 執筆:わざわざ編集部
- 撮影:若菜紘之
木村石鹸の本社工場へ行ってきました
伝統的な「釜焚き製法」での石鹸作り
まず、木村石鹸の工場へ。木村石鹸では家庭用洗剤のほか、業務用の洗浄剤などを製造しています。これらの製品の原材料のひとつとなるのが「石鹸」です。
木村石鹸では、石鹸を「釜焚き製法」で作り続けてきました。釜焚き製法は伝統的な方法で、油脂と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を加熱しながら反応させることで石鹸を作ります。石鹸の個性を決めるのは油脂の性質だと木村さんは言います。木村石鹸は洗浄力を重視して、食用のヤシ油を採用しています。
一見、簡単そうな作業に見えますが、吹きこぼれないよう温度調整をしたり、においや液の状態を確認するのはすべて「人の力」です。気温や湿度といった外的環境によって仕上がりが左右されるため、釜には職人が一人付き、まさしく職人の勘で石鹸を作っていました。
取り出した石鹸は試験にかけ、基準をクリアした石鹸は、さまざまな洗剤へと加工するため次の行程へと進んでいきます。
手間と効率を考えたら、石鹸作りはもう辞めたらいい
釜焚き製法で作る石鹸を大切にしてきた木村石鹸。でも実は、原料としての石鹸なら海外製のものが安価で出回っています。「手間と効率を考えたら、石鹸作りはもう辞めたらいいのでは」。社内でも度々議論になったのだそうです。
木村石鹸では2019年に三重・伊賀に工場を新設しました。最新鋭で生産効率のいい機械が揃っているのだろうと思いきや、釜焚きの設備を作ったのだといいます。
「社内で評判は良くなかったですよ、でも効率を求めても仕方ないから」と木村さん。生産効率も大事かもしれないけれど、石鹸作りには一周回って面白さを感じているし、石鹸でやらなくてもいいものづくりにも挑戦できる良さもあると話していました。
効率を求めない社風は、石鹸作りを根底に、社内のあらゆるところに息づいていました。例えば社内の開発チームには、自社ブランド製品については好きなように開発してもらいたいので新商品の開発数や期日といったノルマは設けていないそうです。個人がそれぞれ気になった事柄に対して実験を繰り返し、開発につなげる。こうした姿勢は木村石鹸の強みとなっています。
ヒット商品「12/JU-NI」が誕生した理由
木村石鹸のヒット商品、12/JU-NI。髪の悩みを軽くするために開発されたシャンプー・コンディショナーです。
12/JU-NIを開発したスタッフは元々他社で商品開発に携わっていたのですが、効果よりも利益を優先するように求められるような場面が度々あったそうです。思うような開発ができない環境を不満に思い、転職先に選んだのが木村石鹸でした。
木村石鹸では石鹸を原料にした石鹸シャンプーを作りたいと考えており、前述のスタッフさんに開発を依頼。幾度となく試作を重ねますが、なかなか満足できる仕上がりになりません。
スタッフはその開発と並行して、髪をよくするシャンプーを作りたい一心で石鹸を使わない商品開発も模索していました。試作すること、なんと約5年!形になったのは会社が求めるものとは異なる石鹸不使用のシャンプーでした。しかも使う人の髪質によって合う合わないがハッキリ分かれるという万人受けしない仕様。ですが、社内での評判も上々です。さらに、サンプル品の反響がよかったことを踏まえ発売を決定しました。「12/JU-NI」の誕生です。
12/JU-NIは商品自体の良さはもちろんのこと、「合わない人には合いません」と正直に伝えている姿勢も評判を呼び、世の中に広まっています。
もし木村石鹸が、
「うちは石鹸メーカーなのだから石鹸シャンプー以外なんて認めない!」「ノンシリコンが流行っているからシリコンは使わないで」というスタンスだったら。
「ある程度の出来栄えでいいから、年度末までに発売しよう」と、スタッフさんの志半ばで開発を切り上げさせてしまっていたら。
12/JU-NIは間違いなく誕生していなかったでしょう。
「欲しいから作る、いいものだから作る」でありたい
時に木村さんは、街で見かけた商品をよく見てみると、ものづくりの順序が逆転していると感じることがあるといいます。
素敵なパッケージや目を引くキャッチフレーズに期待して買ったはいいものの、いざ使ってみたら思っていたのと違ったという経験はありませんか。もしかすると、そういう商品は「売るために」作られたものだったのかもしれません。
売上をあげたい、話題を作りたい。肝心の商品の中身が置き去りになっている商品もあることでしょう。商品を作るには工場や職人といった生産者の力が必要です。しかし生産者への対価が少ない現状もあります。
「売るためのもの」ではなく、「よいもの」だから商品化して暮らしの役に立ちたい。そして、木村石鹸がものづくりで関わった人たちには仕事を通して幸せであってほしい。「誰かが泣いているものづくりはやりたくない」と、木村さんはきっぱりと話しました。
わざわざのものづくりも、自分たちが欲しくて、世の中に見当たらないものを作るのが起点です。お客様・生産者・わざわざの三者にとってちょうどいい製品作りを心がけています。だからこそ木村石鹸に深く共感するところがあり、今回の訪問を通してあらためて背筋が伸びるような思いがしました。
木村石鹸とわざわざはこれからも、売るためではない、欲しいもの、心からいいと思えるものを追い求めていきます。