コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

売上でも流行でもなく、「よいもの」を求めて。(木村石鹸)

売上でも流行でもなく、「よいもの」を求めて。(木村石鹸)

大阪府八尾市。歯ブラシや金属製品、電子機器などの工場が立ち並ぶ「ものづくりのまち」に、木村石鹸は本社と工場を構えています。

わざわざは、取り扱っている商品の作り手の現場に伺うことを大切にしています。これまでも各メーカーの工場に足を運び、現場だからわかること・感じたことをお客様へお伝えしてきました。そして漸く、木村石鹸の工場に伺いました。

木村石鹸代表・木村祥一郎さんとわざわざ代表の平田はかねてから親交があり、到着するなり話が弾みに弾みます。工場を見学しながらノンストップで語らうこと約4時間。話が多岐にわたる中で、ふたりが考える「良いもの」とは何なのかが見えてきました。

  • 執筆:わざわざ編集部
  • 撮影:若菜紘之

木村石鹸の本社工場へ行ってきました

伝統的な「釜焚き製法」での石鹸作り

まず、木村石鹸の工場へ。木村石鹸では家庭用洗剤のほか、業務用の洗浄剤などを製造しています。これらの製品の原材料のひとつとなるのが「石鹸」です。

木村石鹸では、石鹸を「釜焚き製法」で作り続けてきました。釜焚き製法は伝統的な方法で、油脂と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を加熱しながら反応させることで石鹸を作ります。石鹸の個性を決めるのは油脂の性質だと木村さんは言います。木村石鹸は洗浄力を重視して、食用のヤシ油を採用しています。

深さ1.9mの大きな釜。約1.5トンの原料を入れ、朝から午後にかけて加熱します。

午後3時頃には反応が進んで石鹸になってくるので、タイミングを見極めて取り出します。

一見、簡単そうな作業に見えますが、吹きこぼれないよう温度調整をしたり、においや液の状態を確認するのはすべて「人の力」です。気温や湿度といった外的環境によって仕上がりが左右されるため、釜には職人が一人付き、まさしく職人の勘で石鹸を作っていました。

取り出した石鹸は試験にかけ、基準をクリアした石鹸は、さまざまな洗剤へと加工するため次の行程へと進んでいきます。

手間と効率を考えたら、石鹸作りはもう辞めたらいい

木村石鹸代表・木村祥一郎さん

釜焚き製法で作る石鹸を大切にしてきた木村石鹸。でも実は、原料としての石鹸なら海外製のものが安価で出回っています。「手間と効率を考えたら、石鹸作りはもう辞めたらいいのでは」。社内でも度々議論になったのだそうです。

こちらは製造中の「粉せっけん」。先程の石鹸を粉にして乾燥させるのに1週間ほどかかり、生産コストの高い製品です

粉せっけんを国内生産しているメーカーはほぼなく、市場からも消えつつあります。木村石鹸では自社製品に活用する分だけを製造しているとのこと。

木村石鹸では2019年に三重・伊賀に工場を新設しました。最新鋭で生産効率のいい機械が揃っているのだろうと思いきや、釜焚きの設備を作ったのだといいます。

「社内で評判は良くなかったですよ、でも効率を求めても仕方ないから」と木村さん。生産効率も大事かもしれないけれど、石鹸作りには一周回って面白さを感じているし、石鹸でやらなくてもいいものづくりにも挑戦できる良さもあると話していました。

効率を求めない社風は、石鹸作りを根底に、社内のあらゆるところに息づいていました。例えば社内の開発チームには、自社ブランド製品については好きなように開発してもらいたいので新商品の開発数や期日といったノルマは設けていないそうです。個人がそれぞれ気になった事柄に対して実験を繰り返し、開発につなげる。こうした姿勢は木村石鹸の強みとなっています。

ヒット商品「12/JU-NI」が誕生した理由

木村石鹸のヒット商品、12/JU-NI。髪の悩みを軽くするために開発されたシャンプー・コンディショナーです。

12/JU-NIを開発したスタッフは元々他社で商品開発に携わっていたのですが、効果よりも利益を優先するように求められるような場面が度々あったそうです。思うような開発ができない環境を不満に思い、転職先に選んだのが木村石鹸でした。

開発ルームの机の上には材料や石鹸がずらり。

木村石鹸では石鹸を原料にした石鹸シャンプーを作りたいと考えており、前述のスタッフさんに開発を依頼。幾度となく試作を重ねますが、なかなか満足できる仕上がりになりません。

スタッフはその開発と並行して、髪をよくするシャンプーを作りたい一心で石鹸を使わない商品開発も模索していました。試作すること、なんと約5年!形になったのは会社が求めるものとは異なる石鹸不使用のシャンプーでした。しかも使う人の髪質によって合う合わないがハッキリ分かれるという万人受けしない仕様。ですが、社内での評判も上々です。さらに、サンプル品の反響がよかったことを踏まえ発売を決定しました。「12/JU-NI」の誕生です。

12/JU-NIは商品自体の良さはもちろんのこと、「合わない人には合いません」と正直に伝えている姿勢も評判を呼び、世の中に広まっています。

12/JU-NIのパッケージ裏面。「かなり偏った処方になっているため、髪質によっては合わない場合もございます」と明記されています

もし木村石鹸が、

「うちは石鹸メーカーなのだから石鹸シャンプー以外なんて認めない!」「ノンシリコンが流行っているからシリコンは使わないで」というスタンスだったら。

「ある程度の出来栄えでいいから、年度末までに発売しよう」と、スタッフさんの志半ばで開発を切り上げさせてしまっていたら。

12/JU-NIは間違いなく誕生していなかったでしょう。

「欲しいから作る、いいものだから作る」でありたい

時に木村さんは、街で見かけた商品をよく見てみると、ものづくりの順序が逆転していると感じることがあるといいます。

素敵なパッケージや目を引くキャッチフレーズに期待して買ったはいいものの、いざ使ってみたら思っていたのと違ったという経験はありませんか。もしかすると、そういう商品は「売るために」作られたものだったのかもしれません。

売上をあげたい、話題を作りたい。肝心の商品の中身が置き去りになっている商品もあることでしょう。商品を作るには工場や職人といった生産者の力が必要です。しかし生産者への対価が少ない現状もあります。

「売るためのもの」ではなく、「よいもの」だから商品化して暮らしの役に立ちたい。そして、木村石鹸がものづくりで関わった人たちには仕事を通して幸せであってほしい。「誰かが泣いているものづくりはやりたくない」と、木村さんはきっぱりと話しました。

わざわざのものづくりも、自分たちが欲しくて、世の中に見当たらないものを作るのが起点です。お客様・生産者・わざわざの三者にとってちょうどいい製品作りを心がけています。だからこそ木村石鹸に深く共感するところがあり、今回の訪問を通してあらためて背筋が伸びるような思いがしました。

木村石鹸とわざわざはこれからも、売るためではない、欲しいもの、心からいいと思えるものを追い求めていきます。

わざわざ編集部

皆様の「よき生活」のお役に立ちたいという思いのもと、正しい情報や欲しい商品をお届けすべく、わざわざオンラインストアでの商品ページ・記事作成や運営を担当。メールマガジンや公式Instagram、Threads、X、LINEでの広報活動も行う。

わざわざ編集部の記事をもっと見る

特集