くるみのガラスは薄緑色。
- 執筆:わざわざ編集部
- 撮影:若菜紘之
目次
長野県東御市海野宿の
吹きガラス工房 橙(だいだい)
長野県東御市の海野宿にあるガラス工房 橙(だいだい)さんの吹きガラスの作品です。 寺西将樹さん、真紀子さんご夫妻で営まれています。 わざわざでは、東御市特産品でもある胡桃を使ったくるみガラスの商品を中心に取り扱っております。
寺西将樹 プロフィール
1969 長野県生まれ 東京造形大学卒。グラススタジオインヨコハマを経て、独立。日本クラフト展、伊丹国際クラフト展、あわら市 酒の器展、日本民芸館展入選
寺西真紀子 プロフィール
1969 長崎県生まれ武蔵野美術短期大学卒。東京ガラス工芸研究所卒。Pilchuck Glass School参加、ガラス彫刻コンペティション奨励賞、グラススタジオインヨコハマを経て、独立。
東御市と言えば、
ガラス工房橙だった
わたしが長野県東御市に引っ越して来た時に、一番最初にプロの仕事だと感動したのが橙さんだった。橙の工房にはギャラリーとカフェが併設されている。カフェで手作りのケーキを頂いた後に、少しだけの買い物をした。多分一番最初に買ったのはクルミガラスのそば猪口だ。自分が店をやるときには必ず商品を取り扱いさせてもらうと思っていた。
昔ながらの町並みが残る海野宿という街の中で、吹きガラスを作り、古民家を改装して店を運営する姿に憧れを持った。立地も素晴らしくいく価値のある場所なのでぜひ足を運んでみて欲しい。
近いからなかなか聞けないこと
店に通ううちに自分の店作りが始まって、取引を申し込みたいのになかなか申し込めない。いつも店に行くと他のお客様が楽しそうに買い物していて「お取引をしたいのですが」などと、かしこまったことを言える雰囲気でないと勝手に思って退散する。真紀子さんが平田さんなかなか話しかけてこなかったねと笑っていたが、近いということはむしろハードルを上げることもある。
取り扱いをやっとのことでお願いしたのは、店が開店して何年も経過した後だった。今更ですが、お取引お願いできますか?の問いかけに快く応じてくれたのが嬉しかった。注文しては工房に直接取りに行く、そこでいくつか試作品を見せてもらいつつ、また注文する。行くと必ずお互いの様子をおしゃべりして帰る。近所だからできる付き合いが始まった。
ガラス一筋
改めてお二人の経歴を聞いた中で一番驚いたのが、ガラス一本であることだった。一点の曇もないと言いたくなるほどにガラス一筋である。学生時代には美大で学んだもののガラスという選択肢がなかったため、他の素材を専門にしていたが、ガラスへの思慕からガラスメーカーに就職したと言う。そして、現在に至るまで経歴はガラスで埋め尽くされている。
独立する際には、将樹さんの実家が近いと言う理由から長野県東御市海野宿を選び、古民家のDIYによる増改築を繰り返しつつ、工房兼お店を営んでいるのだ。店舗の作りはDIYの香りが全くしない。土壁・竹・ガラス・木、様々な素材を組み合わせ、昔ながらの家の構造を活かした内容の建築であるようにみえる。ものづくりをしている人たちのDIYはやっぱり素人とはちょっと違うのだ。
イレギュラーをデザインする
現在、お二人はガラスを制作し始めてから20年が経過したという。毎日8時半からスタートする日課はそれほど変わらない。飽きずに楽しんで取り組めるのはどこが魅力なのか?と聞くと、イレギュラーをデザインしていくと過程が面白いと将樹さん。熱したガラスは柔らかさを伴って歪んでいく。予測できる歪みを活かしながら、予想外の予想をする。
無理に力を入れてコントロールするのではなく、相手の気持ちを慮りながら作れた作品に納得感を得る。ガラスに振り回されて、できてしまうものであると笑う将樹さんはまるで少年のような笑顔をしていました。
ガラスの作り方は調べといて!
いつも商品を取りに行く際に横目で工房の中でガラスを吹いている姿は見てはいたけれど、それがいつの間にか当たり前になってしまって、作り方をちゃんと聞いたことがなかったなと、作成現場を説明を受けながら見学させていただいた。ガラスのことを色々質問したら、作り方はいっぱいネットに乗ってるから調べといてって言われたことだけ書いておこう。わたしも取材された時のことを思い出して大笑いしてしまった。確かに。
一つも無駄のない動きでルーティンを繰り返す
寺西さんの動きには一切無駄がない。アシスタントさんとの呼吸も抜群で、二人は殆ど声をかわさず動きをよみながら行動をともにする。吹きガラスは一つずつしか作れない。同じものを2つ作るには、同じ工程を繰り返すしかない。ガラスの性質上、何かと何かを一緒にやって効率を高めるということができない。このジャグだと、一日に30個作ることが限界だと言う。ものすごい熱い炉の前でひたすら無言で動作を繰り返す姿には脱帽する。この静かな作業の中でデザインするという気持ちを失わないのがすごいと思った。またお二人の作品に愛着が湧いた。