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口元を気にせず、食べて笑えること。 「健康な歯」がつくる美しさ

口元を気にせず、食べて笑えること。 「健康な歯」がつくる美しさ

「いくつになっても、美しくありたい」。

きっと、多くの方が願っていることだと思います。

でも、美しさって何でしょう? どうすれば身につけられるものなのでしょう? この連載では、美しくあるために必要なことをさまざまな人にインタビューしていきます。

今回のテーマは「歯」。お話を伺ったのは、長野県佐久市にある「しずくだ歯科クリニック」の院長・雫田義和さんです。

同じパーソナルトレーニングジムに通っているという縁で雫田さんと出会ったという、わざわざ代表・平田さんは、子どもの頃から歯が弱く、これまでに虫歯や食いしばりなどで悩んできたそう。本連載の書き手である私も、年齢を重ねるにつれ歯の悩みが増えてきています。

歯は食事などで使う大切なパーツであり、顔の印象にも大きな影響を与えるもの。けれど、虫歯などの実際的な問題が起きた時には歯医者に行くけれど、なかなか常日頃からメンテナンスする習慣を持つことが難しいと感じている方もいるのではないでしょうか。

歯を健康に美しく保つためにできることとは?
毎日できる歯のための習慣って?

気になる「歯」についてのお話を、雫田さんにうかがいました。

  • 執筆:土門蘭
  • 編集:あかしゆか
プロフィール:
雫田義和(しずくだ・よしかず)
1980年長野県生まれ。2006年東京歯科大学卒業。同年、東京歯科大学水道橋病院、北海道帯広市にて研修。2011年千葉県にて分院長として勤務した後、2015年、長野県佐久市内にしずくだ歯科クリニックを開業。所属:口腔インプラント学会・東京SJCD・スタディーグループ赤坂会・ITIメンバー(ITI日本支部公認インプラントスペシャリスト)

「フロス・オア・ダイ」!?

──雫田さんが故郷の長野県佐久市に「しずくだ歯科クリニック」を開院されてから、もう10年以上経つそうですね。普段どんなことを大事にしながら診療されているのでしょうか?

雫田:僕たちが大事にしているのは「自分たちの大切な人だったらどうするか考える」ということです。歯科治療は、同じ診断名であっても治療法が一つではありません。選択肢は無数にあり、ドクターの考え方や患者さんの価値観によって、選ばれる方法がまったく異なります。

そんなとき僕たちが立ち返るのは、「もし家族だったら、どんな治療をしてあげたいか」という視点です。安全、清潔、コミュニケーション、そしてスピード。この4つを柱としながら、患者さんの人生の時間を大切にする診療を行っています。

──患者さんによって様々な歯の悩みがあるかと思うのですが、どういったものが多いのでしょうか?

雫田:当院で特に多いのは、歯を失ったことによるインプラントのご相談ですね。歯が折れてしまった、というケースもありますが、最も多い原因は歯周病です。

歯周病は、歯周病菌の感染などにより、歯ぐきや歯槽骨といった歯周組織に炎症が起こる病気です。炎症が歯ぐきだけにとどまっている段階を歯肉炎といいますが、進行すると骨が溶け、歯を支えられなくなります。やがて歯がぐらつき、抜けてしまう。そうした状態で来院される方が少なくありません。

──それは、歯磨きがちゃんとできていないことが原因なんでしょうか?

雫田:それも一因ですが、遺伝や唾液の質など、さまざまな要素が関係しています。痛みがないからと長年歯科にかかっていなかった方が、気づかないうちに歯周病を進行させていることもあります。だからこそ、定期的な健診が大切なんです。

──確かに……私も定期健診で、それまで気づかなかった虫歯を見つけてもらったことがあります。

雫田:早いうちに見つけて治療するためにも、ぜひ定期健診には行っていただきたいですね。そして当院でも、やはり虫歯はポピュラーな病気です。虫歯になった場所を思い出していただくと、歯と歯の間が多くありませんでしたか?

──はい、まさに!

雫田:噛み合わせる時、歯は上下だけでなく横方向にも擦れ合います。すると、隣り合う歯の接触部分に細かな傷がついて、汚れがたまりやすくなるんですよ。ところがその部分は、通常の歯磨きではなかなか届いません。結果として、虫歯になりやすくなるんです。

そこで大切なのがフロスです。歯と歯の間をきれいに保てれば、虫歯のリスクは大きく下げられます。アメリカでは「Floss or Die(フロス・オア・ダイ)」という言葉があるほどです(笑)。

──フロスか、死か……!

雫田:少し強い表現ですが、それくらい重要だということですね。面倒に感じるかもしれませんが、歯磨き後にフロスを通すと、こんなに汚れが残っていたのかと驚くはずです。せめて夜だけでも、毎日の習慣にしていただきたいですね。

また、歯の表面も虫歯になります。歯磨きが不十分な場合はもちろんですが、清涼飲料水を日常的に飲む方も注意が必要です。コーラなどをよく飲まれる方は、歯を見ればすぐにわかります。歯の表面が溶けているんですよ。

──えっ、甘いものを飲むと歯が溶けるんですか?

雫田:砂糖を多く含む飲料はpHが低く、口の中を酸性にします。特にペットボトル飲料のように、蓋をしてはちょこちょこと飲み続けられる状態になると、唾液で中和される間もなく、口腔内が長時間酸性のままになります。その状態が続くと、歯は徐々に溶けてしまうんですね。なので、患者さんに「もう飲まないでくださいね」と指摘することもありますよ。

──となると、飴などを日常的に食べていると歯が溶けるということでしょうか? 口の中がずっと甘い状態になりますもんね。

雫田:はい、飴も同様です。喉が痛い時などに一時的に舐めるのは構わないのですが、習慣化するのはよくないですね。とにかく、口の中を長時間酸性にしないこと。それが大切です。

歯には人生が表れる

雫田:あと、歯並びが原因で虫歯になられる方も少なくありません。歯が重なっていると磨き残しが出やすく、擦れも生じやすい。早めに歯並びを整えることも、立派な予防の一つです。

──歯並びは見た目の問題だと思っていましたが、健康面にも影響が出るのですね。

雫田:そうですね。審美的な理想と医学的な理想は必ずしも一致しませんが、歯並びが整っている方が磨きやすく、噛み合わせも安定しやすいのは事実です。矯正方法も、ワイヤー矯正やマウスピース型などさまざま。歯並びやライフスタイルに合わせて、歯科医と相談しながら選ぶことが大切です。

──ちなみに、歯並びは加齢とともに変化しませんか? 私は歳をとるうちに歯並びが変わってきたような気がしていて……。

雫田:はい、変わります。歯は年齢とともにすり減りますし、根元に向かって細くなる構造をしているため、だんだん全体がコンパクトになります。その結果、歯が前方に寄り、下の前歯が重なってくることが多いんです。高齢の方の前歯がガタガタしている傾向なのは、このためですね。問題がなければ経過観察しますが、すり減りが強い場合はマウスピースで食いしばりを緩和することもあります。

──食いしばりが歯のすり減りを促すこともあるんですね。

雫田:そうなんです。食いしばりに関しては、年齢に関係なく起こります。ストレスや疲労が強いと無意識に噛み締めてしまうのですが、その結果、歯の表面が削れたり、最悪の場合、歯で歯を噛み砕いて欠損してしまったりすることもあります。こういった症状は高齢者だけでなく、ストレスの多い方……たとえば経営者の方などに多く、つくづく、歯にはその人の人生が表れるなと感じます。

これを防ぐには、普段から「上の歯と下の歯を触れ合わせない」よう意識することですね。昼間は自覚できるので、「また噛んじゃっているな」と気づいたら、口の中で歯を浮かす努力をしてみてください。そして寝る前に枕の高さを調整したり、ストレスを溜めないようにしたり、リラックスした状態でベッドに入ること。それでも入眠中に食いしばってしまう場合は、ほおのエラの部分に、一時的に筋肉を弛緩させる薬を注入する方法もあります。そうして、食いしばる癖をとっていくんです。

──精神的な疲れやストレスが、歯に表れることもあるんですね。

歯への意識が予防につながる

──私が最近気になっているのは、歯の着色汚れです。コーヒーや紅茶をよく飲むからか、気づいたら歯がうっすら黄色くなっていて。どうすれば白くなるでしょうか?

雫田:まずは、歯磨きの頻度を短くすることですね。ただ注意していただきたいのは、歯の表面を傷つける恐れがあるので、研磨剤の入った歯磨き粉を使いすぎないこと。歯を白くするための歯磨き粉については、行きつけの歯医者さんにおすすめを教えてもらうといいと思います。それと一緒に超音波歯ブラシなどを使うと、色がつきにくくなっていきますよ。

あとは、「ホワイトニング」という選択肢もあります。これは表面の着色を落とすのではなく、歯の内部の色素を分解して全体を明るくする漂白のようなものです。どちらもホワイトニング剤を使用するのですが、クリニックで光を当てる方法と、自宅でマウスピースを装着する方法があります。施術後、一時的にしみることはありますが、時間とともに落ち着いてきます。

──なるほど。どちらが自分に向いているかも、歯科医院で相談してみると良さそうですね。

雫田:はい。定期健診の際など、ぜひ気軽に聞いてみてください。どんなことでもいいから歯を意識し始めると、自然と予防への意識も高まります。それが結果的に、歯の健康につながると思いますよ。

──となると、自分に合う歯科医院を見つけるのも大事ですよね。いい歯医者さんの見極め方はありますか?

雫田:納得いくまで説明してくれるかどうか、そこが大切だと思います。もしも説明に不安を感じたら、セカンドオピニオンを入れるのも一つの方法です。僕のクリニックにも、「他の歯科ではこういう治療法を提案されたのですが、どう思いますか?」と意見を求めて来られる患者さんがよくいらっしゃいますよ。それで安心して治療を受けられるのなら、とてもいいことです。

──歯は削ったり抜いたりすると後戻りできないですものね。

雫田:その通りです。だからこそ対処療法よりも、なぜこうなってしまったのか原因を特定したり、治療後も健康に歯を保っていくことが大事です。治療が終わった後も人生は続いていきますから、そういった視点でお付き合いできる歯医者さんを選ぶのが良いのではないでしょうか。

美しさとは、「口元を気にせずしっかり食べて、しっかり笑える」こと

──最後に、雫田さんにとって「美しさ」とはどういうものか教えてください。

雫田:いろんな基準があると思いますが、僕は歯医者として、口元を気にせずにしっかり食べてしっかり笑える状態が何よりも美しいことだと思っています。そのために、その人の骨格に合ったかみ合わせや歯並び、歯の健康が必要です。「美しい歯」が美しさをつくるのではないかなと思いますね。

──しっかり食べて、しっかり笑える。たしかに人にとって、根源的に大切なことですね。

雫田:はい。「美しい歯」とは、見た目だけの話ではないんです。人は口から栄養を摂取し、全身に巡らせますよね。逆に言えば、口にいる菌も全身を駆け巡ってしまうんです。例えば口の中の菌が肺に入って肺炎を引き起こすこともありますし、亡くなった方の足元から歯周病菌が出る、なんてこともあります。手術前の検査で「歯科でクリーニングをしてきてください」と言われることがあるのは、こういった理由からなんですよ。

──それは衝撃的です……身体の入り口である「歯」が、そんなに全体に影響を及ぼすとは思っていませんでした。

雫田:ご高齢の方を診療していても、元気な方とそうでない方の違いは、やはり「しっかり食べてしっかり笑えているか」です。好きなものを食べて、お友達と楽しくおしゃべりできている方は、皆さんお元気ですし、やっぱり美しいですよね。

──心理的にも身体的にも健やかな毎日を過ごせることが「美しさ」につながる。お話を伺っていて、ますます歯を大事にしていきたいと思いました。ありがとうございました!

歯を美しくするために、今日からできること

最後に、雫田さんに「歯を美しくするために、今日からできること」をうかがいました。

「まずは、1日1回のフロスから始めてみてください。『フロス・オア・ダイ』という言葉を思い出して、習慣化していたいただけたらなと思います。

あとは、行きつけの歯科医院で定期健診の予約をとってみるというのはいかがでしょう? 気になるところがあってもなくても、一歩踏み出してみることが大切です」

取材後、すぐに歯磨きとフロスをしてしまった筆者。さっそく定期健診も予約して、気になるホワイトニングについて相談してみようと思います。

いつまでも、しっかり食べてしっかり笑える自分を目指して。「身体の入り口」のメンテナンスのために、できることを一つずつやっていきたいものです。

土門蘭

文筆家。1985年広島県生まれ、京都在住。小説・短歌などの文芸作品や、インタビュー記事の執筆を行う。著書に『100年後あなたもわたしもいない日に』(寺田マユミ氏との共著)、『経営者の孤独。』、『戦争と五人の女』、『そもそも交換日記』(桜林直子氏との共著)がある。2023年4月には、2年間の自身のカウンセリングの記録を綴ったエッセイ『死ぬまで生きる日記』を上梓。同作品で第一回「生きる本大賞」受賞。

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