辰巳窯
- 執筆:わざわざ編集部
- 撮影:若菜紘之
物産店で見つけた異彩を放った器
遡ること2012年、私は念願の2つの焼き物の里、大分県日田市の小鹿田と福岡県の小石原を訪れていました。小鹿田焼と小石原焼は大分と福岡で県は違いますが、山を挟んで車で30-40分ほどの距離です。飛び鉋や刷毛目の技法が有名で、素焼きをせず、形作った器を乾燥させて釉薬を生掛けして、そのまま本焼きすることが特徴です。
愛用していたこともあり、すごく楽しく窯元を回ったことを覚えています。小鹿田焼は一子相伝で開窯以来の習慣があり、窯元は10軒もない人里離れた独特の荘厳な雰囲気をもっており、感動しました。
一方、小石原は一時期よりも大分減ったものの現在も50軒ほどの窯元があり、にぎやかな雰囲気です。小石原の窯元を一度に回ることは断念して、帰路に着いたのです。
それから7年後、改めてもう一度小石原を訪れてみたいという気持ちがあり、大籠さんを誘って行ったのが先の話です。大籠さんの知人の窯元を紹介してもらいつつ、二人で物産館に行ってどこの窯元が面白そうかな?となったのです。
そこで見つけたのが自分の小石原の概念とは全く違う器たちでした。刷毛目や飛び鉋、薄くて軽い、そんなイメージとはかけ離れた重々しいオブジェが並んでいました。それが辰巳窯さんとの出会いです。
自分で採った土を薪窯で焼く
辰巳窯について、そのギャラリーにおいてある器たちを見て、感動しました。どっしりとした土を感じる用途とは無縁の荒々しいものもあれば、薄作りの使い勝手のいい器もある。同じ人が作っているのかどうかも疑問に思うくらい、自由です。ですが、なにか一本芯があるというか、器に迷いがないように感じました。
店内をゆっくり見ていると、奥様がいらっしゃってお茶を淹れてくださり、辰巳窯のご主人でいらっしゃる長沼さんがいらっしゃいました。
優しいお人柄のお二人と会話が弾み「小石原焼というものの定義はなんですか?」という話で盛り上がったのですが、「ここで採れた土でここで焼いたらなんでも小石原なんじゃないかな?」とニコッと笑う長沼さん。
長沼さんは小石原で激しい土砂災害があった時も、あの辺りが崩れたなら良い粘土が採取できるかもしれないと、粘土を真っ先に採取しに行ったそう。あっけらかんと話してくれましたが、きっと大変だったはずです。器ごとに粘土の表情が違うので、それが作品の豊かさにも繋がっているのだなと感じました。
私が薪窯でパンを焼いているという話をすると、うちも登り窯で焼いているよ!と。小石原でも常時薪窯で焼いて器を作っているのは、ごく一部の窯元です。
薪は何を使っているのか?と薪談義で大盛りあがり。楢の木でパンを焼いていると言うと、楢灰で釉薬を作って焼いてみたいという話になり、後日、灰を送ることになったのです。
これが後ほど、長沼さんから送られてきた器です。パンを焼いてできた灰が、こんな透明感のある釉薬になって器となりました。感動しました…! 大好きな器の一つです。
その後もやりとりがあり、問touで常設展示させていただくことになり、2022年に再度長沼さんの元を訪れました。
神様がおるんよ
窯の上部にはしめ縄が飾ってありました。あまりこのような設えをしている陶芸家さんを見たことがなかったので聞いてみると、「窯の神様がおるんよ」と長沼さんは言いました。
自分で作ったものを窯の中に入れて焼くと、想像もしていなかったものが焼けることがある。ある程度、経験を積んでどの場所におくと灰が被る被らないなど、大体のことを掴んだと思っていても、そうでもないものが焼ける。それは窯の神様の仕業でありそれが楽しいと。
火を付けるのも火打ち石でつけるそうです。ライターでつけたらそれっぽくないでしょ?と長沼さんはまた笑うのです。
取っ手のない土鍋。「熱くないんですか?」「熱いです。」「ですよね。笑」でも本当にかわいらしいフォルムで素敵です。使い勝手がいいとかそういうのを超越してくる作品群です。
見るからに重い器は、やっぱり重い。だけどこの豪快さがどこにもない唯一無二の魅力に感じます。
「明日死ねるか?」黒板に書かれたこの言葉。一日一日を作品づくりに費やし、楽しんで作陶されている長沼さん。言葉にずっしりとした重みを感じました。
今回は長沼家でも愛用されているコーヒーポットとドリッパーをオーダーして作っていただきました(少し形は違います)。こちらは使い勝手がよいグループです。笑
本当に面白いです。重くて持ち上げられないような器から、実用品まで本当に幅が広くどれもが魅力的です。数が限られていますが、ぜひお手にとっていただきたい人気商品です。
記事を書いて写真を見ていたら、辰巳窯に遊びに行きたくなってしまいました…。この笑顔が素敵なご家族にまた会いたいです。
皆さんもぜひ小石原に行った際には訪ねてみてくださいね。長沼さん、今後とも宜しくお願いたします!