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「よき人生とは、少しずつ前進できていると実感が持てること」。GOOD LIFE #01 あかしゆか

よき人生を送りたい──。その願いはきっとこの世の中で、どんな願いよりも普遍的なものではないだろうか。悪い人生を送りたいと願う人はきっといない。誰しもが一度は「よき人生を」と、その思いを胸に抱いたことがあるはずだ。

年齢・性別・職業問わず、今を生きるさまざまな人たちに「よき人生とは何か?」を問うていく連載企画「GOOD LIFE」。

第1回は、本メディア「よきマガジン」の編集長を務めるあかしゆかと、わざわざ代表・平田はる香で対談を行った。

  • 執筆:よきマガジン編集部
  • 撮影:若菜紘之

#「人生」を問うコンテンツが読みたかった

あかし:いよいよはじまりましたね、「GOOD LIFE」。初回が私でいいのかなって本当に不安なのですが……。

平田:あかしさん、ずっと言ってるよね(笑)。大丈夫、大丈夫。

あかし:恐れ多いです。そもそもこの企画は平田さんが「よき人生」についていろんな人に話を聞きたいとおっしゃったところからスタートしたわけですが。なぜこのテーマで話を聞きたいと思われたのか、というところからお話をはじめてもいいでしょうか。

平田:あれ、私が取材されてる?(笑)

あかし:すみません、つい(笑)。

平田:そうですね。「よき人生とは何かについて考えていることを教えてください」といった問いのインタビューを今まで見たことがなかった、というのが一番大きな理由ですね。「人生」という大きなテーマについて語っている取材ってあまりなくないですか? 

たとえばスポーツ選手にスポーツの取材をしに行くとか、アートに詳しい人にアートについて聞くとか、その取材対象者の興味・専門分野について具体化されたテーマで人に聞くことはあるけれど、「人生」といった大きな括りってあまりない。だからこそ聞いてみたいと思ったんです。

あかし:たしかに「よい人生とはなんですか?」って、問いが壮大すぎて聞かれたことがほとんどないように思います。

平田:ですよね。しかもこのテーマは、誰にでも聞きに行けるのがいい。年齢、性別、職種問わず、よき人生について語り合うって楽しそうじゃないですか。

あかし:楽しそう。平田さんといろんな方との人生の対話を覗き見できるのもすごくいいですね。

#昨日よりも今日よりも、少しずつ前進できていると実感が持てること

平田:じゃあ前置きはこのあたりにして。あかしさんにとっての「よき人生」とは、どんな人生でしょうか?

あかし:うーん。よき人生ですよね……(しばし考える)。私にとってのよき人生とは、「少しずつ前進していると実感が持てる人生」でしょうか。

平田:少しずつ前進しているとは、具体的にどういうこと?

あかし:私は数年前まで、なかなか自分の人生を「よい」と思えていなかったんです。自分の性格に対しても、仕事や生活、パートナーシップにおいても、とにかくずーっとモヤモヤしていたんですよね。

それが、仕事の内容や働き方を少しずつ変えていったり、離婚を経験したり、岡山での二拠点生活を始めたりお店を持つようになったりして、自分と向き合い行動し、少しずつ違和感が取れていく実感があって。「ああ、前に進めている」と感じた時に、ようやく「よい人生を歩めているな」と思えるようになりました。

平田:なるほど。この取材はあかしさんが2拠点生活をしている岡山で行っていますが、本当にいい場所ですよね。みんないい人だし景色もすばらしい。あかしさんにとっては、やっぱり岡山に来たことは人生の中で大きかったですか?

あかし:いやあ、本当に人生の転機だったような気がします。特に2021年に岡山に来たばかりの時は、結婚生活がうまくいかずに離婚をするかしないか……といったタイミングだったので、心身ともにボロボロだったんです。

ずっと自己肯定感が低くて、苦しくて。仕事よりも特にパートナーシップにおいての悩みが深くありました。だからこのままではいけないと思って、離婚をきっかけに自分の人生の棚卸しをしたんですよ。生まれた時から今までを、時系列に全部振り返って。

平田:へえ! すごい。

あかし:そうすると、たどり着いたのは育った家庭環境や、幼少期に築かれた自分の根本的な性質についてでした。問題が根深いなあと思い、カウンセリングやコーチングに通ってみたりして、自分なりに向き合ってみたんです。

そもそも岡山に来たのがそういうタイミングだったことに加えて、岡山で築けた人間関係がすごく心地いいもので。今までにないくらい素でいられるなということも感じていました。それぞれの人生があることをちゃんと理解しながら、ほどよい距離感で応援し合える仲間ができて。

「何か大変なことが起きても、最悪この人たちがいれば私はなんとかやっていけるだろう」といった、人生の土台となるような人間関係を築けたことがやはり大きかったなと思いますね。ちょうどこの数年間は、自分の人生のことをいいなと思えるようになる転換期だったような気がします。

平田:あかしさんは、言語化と客観視をよくしていますよね。30歳前後は自分についての問いを立てて考えたりする時期だとは思うけれど、なりたい自分になろうと努力する姿勢はすばらしいです。

あかし:ありがとうございます。でも当時は、「なりたい自分になろう!」という前向きな感覚よりは「このままだと、誰かと人生を一緒に生きていくのが難しい」といった切迫感の方が強くあったかもしれません(笑)。「マイナスをちゃんと正さなければもう生きていけない」といったような。

平田:そうか、直してる感覚だったんだ。

あかし:そうなんです。そして、マイナスだった自分の状態が0ぐらいになった時に、ようやく「私はよい方向に向かってるんだ!」とプラスに考えられるようになって。

新しいパートナーとも出会い、今では純度100%で好きだと言える人たちとともに人生を歩んでいる実感があります。自分から悪意が抜けていく感覚が、ここ数年すごくあるんです。

#よき人生とは、すなわち「よき人間関係がある人生」である

平田:あかしさんの話を聞いて、この特集のきっかけにもなった『グッド・ライフ』という本の内容を思い出しました。これはハーバード大学が、1938年から80年以上にわたって行っている「幸せな人生に必要な条件とは何か?」についての研究内容をまとめた一冊なんですね。

地域性や経済状況、職業などをランダムにピックアップして研究対象者を抽出し、その人たちに打診して、人生について定点的にレポートする研究に協力してもらう。インタビューのほかに、血液検査などの科学的な検査も加えて年に1度全員に同じ調査をするんです。もちろん途中で離脱する人もいるけれど、基本的には定点で人生を終えるまでずっと観測していく。

学校に行って、成人して、仕事をして、誰かと別れて。人生ではいろんなことが起きるじゃないですか。家族関係も変わっていく。家族構成が変わると、新しく家族になったパートナーや生まれた子どもにも取材したり、周辺の人についても全部調査してレポートする。

そして、人生を通して「幸せだったであろうグループ」と「不幸せだったであろうグループ」をグルーピングし、そこには何の違いがあったのかを振り返っているんです。

あかし:私も読みました。スケールがすごいですよね……!

平田:そして80年かけてようやくわかったことは、「よい人生とは、よい人間関係を築けている人生」ということだったんですね。コミュニケーション、人間関係がよいことが、「よき人生」に直結する。

なんと健康はあまり関係ないんですよ。この研究では病気になった人の幸福についても調査されていますが、症状が重かったとしても、人間関係が良好であれば多くの人が「幸せだ」と言うそうです。逆に健康管理ができていても、人間関係が悪かったら不幸せだと言う人が多い。私は衝撃を受けました。病気の重さと幸せかどうかという感情は比例していない。自分の持っている周りのコミュニケーション、コミュニティ全部をよいものにしていくことが幸せに繋がると。

あかし:ああ、すごく胸に沁みます。先日、重い病気に罹られている方とお話をしていたのですが、その方は「今が一番幸せだ」とおっしゃっていて。

その方は、お医者さんに余命を宣告されたあと、自分にとって心地よくない人間関係をすべて断ち切られたらしいんです。自分が心から大事だと思う人に残りの時間をすべて使うと決めた瞬間に本当に幸せになった、というようなことをおっしゃっていました。

平田:まさにですね。よい人生とは、よい人間関係がなくては成り立たない。

# よい人間関係ってなんだろう?

あかし:よい人生とは、よい人間関係。とはいえ、自分が今築いている人間関係が「よいものかどうか」って、渦中ではわからなかったりするのが難しいなとも思います。平田さんはその見極めってどうされていますか?

平田:私は「所属させようとする人」との人間関係を避けるようにしていますね。たとえば私がわざわざの社長ということを知って、その優位性に気がついたから、私を何かに所属させて自分をよく見せると言いますか。

人として対等な付き合いを求められている時はいいんですけど、私に付随しているものを利用しようとされた時に、「これはいい人間関係ではないな」と思います。

あかし:平田さんはたしかにそのご苦労はありそうですね……。

平田:仕事だったら割り切ってもいいかなって時々思ったりするんですけど、やっぱりやめた方がいいなって。

なんだかアンパンマンのような気持ちになるんですよ。アンパンマンって、困った人がいると自分の顔を削って分けるじゃないですか。あの感じ、身を削って人に何かを施す感じは絶対によくないと思って。求められたから渡すのではなく、余剰があるからあげるのがいい。昔はついついやっちゃっていたんですよね。利用しようとしてくる人も、どんな人かわからなくて分け隔てなく接してしまっていた。

あかし:おたがいに見返りを求めない人間関係は本当に大事ですよね。私が岡山で関わっている人たちの心地よさも、見返りがまったくないところにあると思っています。

見返りを求めてこない。肩書きに関係なく接する。それは愛に溢れている証拠で、よい人間関係の秘訣かもしれませんね。

平田:そうですよね。子どもなんてまさにそういう対象です。やってあげるとか思わない。気を使わなくていい、当たり前というか。自分がありのままでいられる関係性がいいですよね。

同時に年を重ねてみて思うのは、勝手に周りが偉くしてくるから、さらけ出しがより重要になっていくということ。20代の時は「さらけ出す」ということが日常茶飯事なんですけど、年を重ねていくと勝手にポジションを上げられるので。自分は自分のままなのにね。だから、自分からわざと「素を出していく」という行動をとっていかないと誤解されちゃうし、よい人間関係を築けないな、とも思っています。

# 怒りや悲しみを自分で引き受けた上で、相手と向き合う

平田:あかしさんと私は、けっこう似ている軸で人を見ているのかもしれませんね。言葉とコミュニケーションを大事にしている。話し合おうとしてますよね。基本的に2人とも。

あかし:そうですね。私は数年前から、当事者研究という分野に興味があって。困りごとを抱えている人たちが、自分の苦労について客観視して研究してみようという学問です。

この考え方を知ってから、理解できなかったり傷つけてくる他者がいたときに、他者に対しても「なんでその人はそうなってしまったのだろう?」と考える癖がついて、それから話し合おうと思うようになりました。

平田:ああ、なるほど。でもあかしさん、私は最近それ、やめようと思ったんですよ。

あかし:ええっ! そうなんですか?

平田:友人に言われたのか本を読んだのか忘れてしまったのですが、相手を客観視しすぎると、相手に肯定的になって自分に対しての酷い行動に対して寛容になってしまうんですよ。相手にも原因があったから仕方なかったんだなと思うと、自分が傷ついたままになる。あまりそれは良くないなと思うんですよね。

あかし:なるほど……。

平田:自分を客観視するのはいいんだけど、他人を客観視しすぎると、自分に降りかかってくる災害を考慮できなくなる。自分をいたわれなくなる。

だから、まずは自分の身の周りにある事実だけを客観視しようと最近は思っています。

あかし:ああ、たしかにわかります。私には全方位におもんばかってしまう癖がある。客観視は自分自身にやるならいいけれど、対象者を選ばないと、時に自分を傷つけてしまうのかもしれない。本当にそうですね。自分の怒りや悲しみをちゃんと自分のものとして大事にすることはすごく大事だなと今思いました。

平田:そうなんですよ。もちろん時と場合によっては他者の客観視は必要ですが、自分のことだけ考えた方がいい部分もある。その前提を考えた上で、人と接するのがいいのかもしれません。

あかし:胸に刻みます。よき人生の話が人間関係の話に終着しましたね。すごくおもしろかったです。次回もたのしみにしています!

 

よきマガジン編集部

1992年、京都出身。大学時代に書店で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。2015年サイボウズへ新卒で入社。同社ブランディング部で企画と編集を学び、2020年に独立。現在はフリーランスの編集者・ライターとして企業のプロジェクトや書籍の編集を手掛ける。岡山と東京の二拠点生活をしながら、2021年に岡山県の児島に書店aruをオープン。

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