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「よき人生とは、選んだカルマに責任を持てる人生」。 GOOD LIFE #04 龍崎翔子

「よき人生とは、選んだカルマに責任を持てる人生」。 GOOD LIFE #04 龍崎翔子

「自分より若い女性経営者と話してみたい」。よきマガジンの編集会議の中で、GOOD LIFEの対談候補について話している時に平田の口からそんな言葉が出て、真っ先に候補として挙がったのが龍崎翔子の名前だった。

平田が龍崎と出会ったのは、5年ほど前の都内の某イベントだったと言う。その際に挨拶を交わした後、龍崎が関わった企画で平田が登壇させていただくなど、緩く交流は続いていた。

小学生の頃から「ホテル経営者になる」という夢を持ち、大学在学中に起業、そして今では100名を超える従業員を抱え、自治体から大企業までさまざまな観光事業のプロジェクトを手がける株式会社水星の代表取締役──。

幼い頃からまっすぐ「ホテル」の道一本で突き進んでいるように見える彼女は、何を思い、何を考え人生を歩んでいるのだろうか。選択肢が溢れる世の中で「決めきる」ことができた彼女の生き様、そして悩む若者へのアドバイスを聞いた時に返ってきた「親の仕事を継げ」という言葉の真意とは……?

年齢・性別・職業問わず、今を生きるさまざまな人たちに「よき人生とは何か?」を問うていく連載企画「GOOD LIFE」。第4回は、ホテルプロデューサー・龍崎翔子に話を聞きに行った。

  • 執筆:あかしゆか
  • 撮影:若菜紘之
  • 編集:あかしゆか

行動基準は、「ホテルで生きていくための役に立つか?」

平田:おひさしぶりです! 龍崎さんとはイベントなどでお会いしていますが、ちゃんとお話するのは初めてですよね。ずっとお話してみたかったのでうれしいです。

龍崎:こちらこそ、お話したかったのでうれしいです! 今日はよろしくお願いします。

平田:龍崎さんは今おいくつになられたんですか?

龍崎:28歳です。

平田:すごい、若い……! 28歳とは思えないほどの人生経験を積まれているように感じます。

龍崎:たしかに、人より人生経験は多めかもしれないですね。

平田:龍崎さんは、小学生の頃にご家族でアメリカ旅行をした時に、ホテルの変わり映えのなさに「自分が泊まりたいと思うホテルを増やしたい」と思って今の道に進むようになったんですよね。

龍崎:そうですね。ほかにも、両親がアカデミアで働いていたので、幼い頃から学会で日本のいろんな場所に連れていってもらったことにも大きく影響を受けています。我が家はどちらかといえば真面目な家庭で、「高級旅館に行っちゃおう!」「沖縄でリゾート泊まろう!」といったノリじゃなかったので、そういう時に泊まるのはいつもビジネスホテルやシティホテルで。「ホテルの雰囲気や景色って全く一緒なんだな」という感情が自分の原体験としてずっとあったんです。

私は歴史もすごく好きだし、それぞれの街の文化の違いも感じたいのですが、ホテルでは全然それが感じ取れなくて。親が学会に行っているあいだに1人で歴史博物館とか行っているような子どもだったんですよ(笑)。それで「おもしろいなあ、この街は」と思いながらホテルに帰ったら、大浴場や朝食も全部同じ。そのモヤモヤを、ずっとホテルに対して抱え続けていました。

平田:小学生の頃から、ずーっとホテルのことを考え続けて生きてきたんですか?

龍崎:そうですね。当時から「ホテル経営者として生きていく」という軸が自分の中の哲学としてあったので、それに照らし合わせてすべての行動規範を決めてきました。「ホテル経営者になる」と決めたから、じゃあ起業しなきゃいけないな、どう起業したらいいかわかんないから、いったん東大行って何か掴もう、みたいな思考回路で東大を目指したり。

だから、ホテルという軸がなくなると大変ですね。軟体動物というか、めちゃくちゃな人間になっちゃうと思います。

平田:ホテルがあるから自分が保たれているんですね。

龍崎:本当にそうだと思います。たとえば東京の大学生って、社会的によくないお誘いなどもあると思うのですが、そういう時にも「将来ホテルを経営する身としてふさわしい行動か?」が判断基準になるんです。アルバイト選びなどもそう。もしホテルという軸がなくなったら、自分の倫理感すら全部狂ってしまうと思いますね。

カルマだから、飽きたりすることはない

平田:とはいえ龍崎さんが「ホテル経営者になろう」と決めたのは小学生で、それって世の中だと進路を決めるスピードとして異様に早いと思うんです。10代からホテルについてばかり考えていて、どこかで飽きたりはしなかったんですか?

龍崎:私、ほかのことについては結構飽き性なんですけど、「ホテル」というジャンルに関してはまったく飽きないんですよ。

そもそも、飽きる・飽きないって意志の問題だと思っていて。「人生をかけて向き合っていく」って腹を括ってるから、飽きるという思考がそもそもないんですよね。ホテル経営は私にとってカルマなんで。

平田:カルマ!(笑) でも、わかる気がします。

龍崎:あとは、私はホテルの事業を別に「好き」でやっているわけじゃないんです。

多くの人は「気象予報士に憧れて」「カフェが好きだから自分もやってみたくて」といったように「憧れ」からスタートすることが多いと思うんですけど、私は「課題感」からスタートしたんです。

「しょうもないな」と思うことがあるから、その「しょうもなさ」をどうにかするために事業をする。そして、その「しょうもなさ」は永遠にどこかに残り続けるんです。昔は「ホテルが全部同じで退屈でしょうもないな」と思ってたけど、今は逆に「すぐ何でもかんでもホテルにしてしまってしょうもないな」と思っていたり。ただの負けず嫌いというか、天邪鬼な部分もあると思います。

憧れはいつかはなくなるけれど、課題感ってなかなかなくならないから、それが飽きずに続けられている理由の一つなのかなとも思います。

平田:たしかに、今は同じようなホテルが増えている感じがしますね。

龍崎:どうにかしたいと感じることはいつまでも残っていて、自分が考える余白が残り続けるから、それが原動力になって飽きずにいられるんだろうなとは思いますね。

平田:いやあ、一貫してますね。迷ったりする時はなかったんですか?

龍崎:もちろん揺れた時期はあります。たとえば5年ぐらい前までは、「私たちはホテルの会社じゃありません!」みたいなことを公言していたんです。「ホテル会社ではなく、世の中に新しい選択肢をつくる会社です」と言ってたんですけど、それはなんだかぼやけて訳がわからないなと思って。それだったらもう「ホテルの会社です」って言い切っちゃった方がいいと今では思っています。

わざわざさんも、やっぱり「パン」というブレない軸があるじゃないですか。パンで始まり、今ではパン以外のこともやっているけどその軸は持ち続けられている。軸足があることで逆に自由になれることってすごくあるし、深さと広さをどっちも取っていくにはやはりひとつの大きな軸を持っていることが大事だなと思います。

人との関係性を作るために、「生粋のお祭り人間」になった

平田:人生のほとんどが「ホテル」という軸でつくられているとは思うんですけど、もう少しパーソナルな龍崎さんのことも知りたいなと思っていて。龍崎さんは、周りの仲良い人たちからどんな人だと言われますか?

龍崎:私の会社は、私の中高時代の同級生も働いていたりするんですけど、みんなに「中学の時と変わってない」と言われますね。

中学生の時から、劇の監督をしたり文化祭の準備を率先して進めたりする「お祭り人間」で、そういったものの延長線上で会社をやってるので、たしかにスタンスは何も変わってないのかもしれません。私は仕事を心から楽しいと思ってるんで、目の前に楽しいプロジェクトがあって、そこに向かって考えてひたすら行動していく。そういうパーソナリティは幼少期からあるのかなとは思います。

平田:楽しいお祭りをみんなと作り上げていくことが好きなんですね。私とは真逆だ……(笑)。どうしてそういうパーソナリティが育まれたんでしょう。

龍崎:その理由には家庭環境があるかもしれません。一人っ子で、親も共働きで鍵っ子だったので、とにかく家に誰か友達を呼びたくて。友達を呼ぶために「今日は◯◯パーティーしよう!」と企画して、家に呼んで遊んでおもてなしして……みたいなことを幼い頃からずっとやっていたので。

「今日はハワイアンパーティーです!ロミロミ着ましょう!」って言って、「アロハ〜」とか言ってる感じのキャラでした。友達と遊ぶのも好きだけど、ただ遊ぶだけじゃなくて友達に楽しんでもらうために企画して場作りをする。プロジェクトメイキングをするのは昔から好きでしたね。

小4の時なんて、仮装大賞に勝手にエントリーして、クラスメイトや先生を20人ぐらい集めて大会に向けて準備したりしていました。

平田:なるほどなあ。「企画」は人と一緒にいるための、幼い龍崎さんの生き延びる術だったんですね。

龍崎:たしかに、人との関係性を紡ぐために場を作ったり、企画するということが自分の根底にあると思います。「友達がなぜか自然と集まってきて常に人に囲まれてます」といった生粋の陽キャではないので。

あとはお手本通りにするのがすごく嫌なんです。根がかぶき者だから、お手本とは絶対に違うことをしたい。与えられた要件の中で「ズレたい」欲求が今も激しくあります。校則で認められた範囲でいかに着崩すかをすごく研究して、でもちゃんと校則には則って、ブーツとか、MA1やキラキラのタイツとかで登校して、「これ校則で規定されてないんで」って先生たちをかわす学生でしたね。

平田:クラスにいたら絶対に人気者ですよね。

龍崎:人気者かは分からないんですが、なんだかんだ先生方にも暖かく見守っていただけて、学校行事や生徒会で熱中した経験が今にも繋がっていると思います。

よき人生とは、カルマを自覚し「担がれ責任」を持つ人生。

平田:ここまでお話してみて、あらためて龍崎さんにとっての「よき人生」とは何だと思いますか?

龍崎:よき人生、なんですかね……。まだまだ人生経験が足りないのでむずかしいのですが、ひとつはやっぱり「カルマ=天命をまっとうする」ことがすごく大事だと思っています。

自分のカルマって「降ってくる」だけじゃなくて、自分が意志を持って「選んでいく」ものだとも思うんです。そのカルマのもとで生き抜くという決意は、自分が無意識にずっと大事にしてきたことなのかなと。

もうひとつは、私はすごく周りの人に恵まれているなと思っていて。お客さんも、家族も友達も働く仲間も本当に大好き。自分が恵まれていることを自覚して、神輿を担いでもらっていることをちゃんと自覚していたいです。その上で意志を持って、神輿の上で踊り続けたい。「担がれ責任」みたいなものは、いつも感じながら生きています。

平田:「担がれ責任」かあ。いい言葉ですね。カルマを背負って、担がれ責任を果たしていく。

龍崎:はい。降ってきたものと、選んだものと、支えられているものを自覚して、ちゃんと踊り切ることが、自分にとってのよき人生なのかなと思っています。

平田:大事な話ですね。やっぱりカルマが降ってくるのも、意志を持って選ぶというのも、仲間に支えられることも今の時代はどれも大事だけど、それをできる人ってなかなかいないですもん。

最後にもうひとつだけ聞きたいことがあります。私から見ると、龍崎さんの同世代、つまり20代の人たちって、龍崎さんと考え方が全然違う気もしているんです。選択肢がたくさんあるからすぐにやめてしまったり、続けられなかったり。そういう揺れ続けている同世代についてはどう思うんですか?

龍崎:むずかしいですね……。平田さんがおっしゃるように、選択肢が溢れているから、みんな正解を選び取りたくなるんですよね。あとはSNSでいろんな人の話を知れるからこそ正しい自己認知ができなくなってしまう。自分の実力以上のものを期待してしまうことで苦しみが生まれているなとも思うし、そういうことが回りまわって、私の目に映る社会認識で言うと、「自分の時間資源をいかに効率よく換金するか」みたいな生き方に繋がっていくんだと思うんですよ。

もちろんそれも一つの生き方だから全然否定されるものではないけれど、それでいいのかな、と思うことはあります。

平田:そんな時はどうすればいいんでしょうね。

龍崎:グラグラしたり、やりたいことがわからなくなったら、私はすっぱり「親の仕事を継ぐ」でいいと思うんですよね(笑)。

江戸時代に、「お父さんの仕事を息子が継ぐ」と人生が決められていたことも、良し悪しはあると思うけど、「迷わなさ」に限って言えばいいことだったなと思うんです。やりたいことがあるんだったらそれをやればいいけれど、迷ってるくらいだったら実家を継ぐ。それくらい決め切っちゃってもいいと思います。

平田:「迷ったら親の仕事を継げ」。最高ですね。結局、成功というかちゃんと意志を持ってやっている人たちは、ひとつのことを継続している人でしかないと最近思うんですよね。以前、GOOD LIFEでお話を聞いた稲とアガベの岡住さんも、「酒という道を決めたから悩まない」とおっしゃっていました。少なくとも私は、「これ」と決めて、ただ頑張ってやる人を尊敬することが多くって。だから龍崎さんの話がとても沁みました。今日はお話できてうれしかったです。ありがとうございました!

龍崎:ありがとうございました!

あかしゆか

1992年生まれ、京都出身。大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。 現在はウェブ・紙問わず、フリーランスの編集者・ライターとして活動をしている。2020年から東京と岡山の2拠点生活をはじめ、2021年4月、瀬戸内海にて本屋「aru」をオープン。

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