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「よき人生とは、自分の可能性を見捨てない人生」。GOOD LIFE #03 山崎大祐

「よき人生とは、自分の可能性を見捨てない人生」。GOOD LIFE #03 山崎大祐

平田が山崎大祐にはじめて会ったのは、2022年のICCサミット(経営者が集まる大規模なカンファレンス)の時だった。そこから、山崎が主催する経営者・起業家・ビジネスパーソン向けゼミ「Warm Heart, Cool Head」に平田が参加したり、山崎がわざわざに来訪したりと、濃い繋がりが続いている。

「山崎さんは、とにかく事業や生き方を肯定してくれる。山崎さんに会うと、自信が持てて頑張ろうという気持ちになる」──。平田はそう言っている。

山崎は、マザーハウスで代表取締役副社長を務めるだけではなく、さまざまな経営ゼミを手がけたり、ブラインドサッカー協会で理事を務めたりと、幅広く活動する実業家だ。そのどれもが、人々の可能性に目を向け、一人ひとりが何かに熱中し前向きに生きていくための環境を作っていく仕事である。

なぜそんなに人に与えることができるのだろうか。その源泉はどこにあるのだろうか?

年齢・性別・職業問わず、今を生きるさまざまな人たちに「よき人生とは何か?」を問うていく連載企画「GOOD LIFE」。

第3回は、山崎大祐に話を聞きに行った。

  • 執筆:あかしゆか
  • 撮影:若菜紘之
  • 編集:あかしゆか

「あまり“よき人生”とか考えたりしないんです」

平田:今日は山崎さんに、人生観を話してもらいたくてやって来ました。

山崎:そうですよね。でも、プライベートは完全秘密主義の人間なんだよなあ(笑)。

平田:メディアなどでも一切言っていないですもんね。

山崎:はい。だけど、この取材ではけっこう出さないとですよね。

平田:もちろん言える範囲で大丈夫ですよ!(笑) まずは、山崎さんの考える「よき人生」がどんなものなのかを聞きたいなと思っていて。

山崎:うーん。僕、あんまり「よき人生」とか考えたりしないんですよね。自分の人生がどうこうとかに興味がないんです。なんていうんだろうな、そもそも自分をあまり持っていない人間だから。

平田:それ、前にもおっしゃっていましたね。

山崎:やっぱり生まれ育った家庭の問題が大きすぎて。母子家庭でお金がなく、子どもの時から自分の存在を理由なく愛してくれる人がいなかったので、自分が存在する理由を常に「外に作らなければいけない人生」だったんですね。小学校の頃から自らアクションすることでしか居場所を作れなかったので、本質的なところで僕はすごく空虚な人間なんです。でも、だからこそ自分に失望したくないというか、自分の可能性を見捨てたくない。すごく愛されたい人間だし、自分を信じたい、必要としてほしいと思っている人間なんだと思います。

そういう意味では、「自分の可能性を見捨てずにいられること」。それが僕にとっての「よき人生」なのかもしれないなあ……。もっとポジティブに言ってあげることは多分できるんだろうけど、僕はあんまりそうじゃないんですよね。

平田:すごく共感する部分があります。実は私も、子どもの頃から「自分の可能性を捨てない」っていうのが口癖だったんですよ。

山崎:そうなんですか。

平田:それは多分、自分自身が自分の可能性を捨てたら「生きる意味がなくなってしまう」という思いがずっとあったからなんですよね。うちも父子家庭で、家族のみんなは他の何かにずっと時間を取られていて、自分のことは1人でやらなくてはいけない家庭だったので、無条件の愛をもらった記憶がない。満たされていなかったんです。「可能性を捨てない」とずっと言っていたのは、山崎さんと似ている気持ちがあったのかもしれないなと思いました。

山崎:たしかに似ているところがあるかもしれませんね。自分の存在を見捨てないように頑張る。同時に僕は、周りの人たちが自分の人生を諦める姿を見てもすごく悲しくなるんです。だから自分を通しながら、いろんな人たちの希望を見つけようと頑張ってきたんですよね。

平田:ああ、なるほど…。さっき、よきマガジン編集長のあかしさんと下で打ち合わせしてた時にちょうど話していたんです。「山崎さんって、みんなの肯定感があがるような話し方をしてくれて、私はそれに救われているんだ」って。いいところを見つけて、「ここはあなたの素晴らしい部分だよ」と褒めてくれるから、自己肯定感が上がるんですよって。

山崎さんは、自分がされたかったことを人にしたい。されて嬉しいことを人に、組織にしているという感覚があるんですね。

山崎:そうそう。だってみんな本当に素晴らしいのに、何でこんなに自己を否定してしまうんだろうって本当に心から思うから。

何事も、結局はポジティブサイクルじゃないですか。そのサイクルは誰かが始めないといけない。僕は究極的には、肯定し合える社会を作りたいんだと思います。でもそれってやっぱり現代社会では難しさが伴う。誰かと比較して、誰かを下げることで自己肯定する社会になってるから、それをどうやったら変えていけるかを常に考えていますね。マザーハウス自体もそうだと思うし、僕がやっているゼミなどの活動も、全部そこに繋がっていくんです。

経済に依存しない「自己肯定」を。

山崎:結局、現代の日本においてほとんどの人たちが何に依存して自己肯定感を作っているかっていうと「稼ぎ」なんですよ。自分の給料が上がっていったとか、どれだけいい暮らしをしているかとか。その象徴として、ブランドバッグやいい時計を買うという行動がある。自分はこんなにお金持ってるんだぞという一番空虚なものが、一番肯定感を作りやすいんです。

今って、実はめちゃくちゃハイブランド品が売れているんですよ。

平田:えっ! そうなんですか?

山崎:そうなんです。今、百貨店がものすごく数字を伸ばしています。そしてその数字を作っているのは、ブランド品を購入しまくる20代・30代の「ニューリッチ層」なんですよ。仮想通貨やYouTubeなどで儲け、たくさん買う人が増えている。わざわざのような事業をしていると、そういう人が減っていると思うかもしれないけれど、若い人はむしろそっちの方向に向かっているという事実があります。

平田:それは全然知りませんでした…。

山崎:でも、こんなに複雑で自己を確立するのが難しい社会の中だと、そうなっていく気持ちも分かりますよね。しかも日本は宗教やライフスタイルなどもバラバラで、拠り所となる大きな思想がまったくない。経済以外の場所でちゃんと存在意義を作っていかないと自己肯定感を作ることは難しいのに、この国では全然その議論がされないんです。戦後、経済成長のみで自己肯定感を作ってきた民族になってしまっていて、それはすごく危険なんですよね。

だから、戦略的に経済以外の自己肯定感を作っていかなくてはいけないと思います。たとえば今はローカルが盛り上がっていますが、これからますますそうなっていくと思います。ローカルコミュニティ特有の、顔が見える関わりの中で自分を受け入れてもらえる経験は、今の時代にとても必要ですから。

東京を中心とした大都市では、ひたすらよくわからない競争概念と渇望感があって、その波に乗らないと居場所が作れない。何かよくわからない仮想のものを一生懸命みんな目指してる。でもそこで勝ちあがれる人って本当に一部しかいなくて、その一部の勝てた人たちも幸せになれない現実がある。

それを見た時に、本当の幸せって何だろう?ということにあらためて向き合わなくてはいけないと思いますよね。

自分の居場所をずっと作ってきた

平田:山崎さんは先ほど「自分の生きる意味を外に作ってきた」とおっしゃっていましたが、具体的にはどのように自分の居場所、肯定感を作られてきたんですか?

山崎:僕が生きるためにしてきた居場所づくりには、大きく3つくらいの方向性があると思います。ひとつは、「自分が戦うことで結果を出し、必要とされる人間になる」ということ。頑張っていい成績を取って、いい会社に入って。でもそれはどちらかというと、前述のような現代社会での戦いですよね。それだけではやっていけない。

だからもうひとつは、彼女かな。僕、彼女がいないと生きていけないんですよ(笑)。

平田:(笑)。

山崎:僕は、人の肯定感には2種類あると思っていて。ひとつは、自分がどうにかして作り上げていくことができる肯定感。僕はもともとは頑張れない人間で、すごくさぼる人間なんだったんです。だけどそれが、いろんな人の助けがあって頑張れる人間になって、自分で目標を設定して超えて……というサイクルを続けられるようになった。そしたら自分自身に対して、ある程度自信がつくじゃないですか。そういう意味で、僕はすごく自己を肯定していると思います。

でもやっぱり、そういうものでは補えないすごく深い「何か」ってあるんですよ。走り続けてきて、結果でしか自己肯定できないってすごく危ういんです。僕はこの20年間、結果では自己を肯定してきました。だけど、包み隠さず自分の気持ちを言えば、「成功しなかったら愛してくれないんじゃないか」という気持ちもごくたまに出てくる時があります。そういう時に、彼女は何もない自分のことも受け入れてくれたり、信じてくれたりする。そういう人たちがそばにいて、僕を支えてくれていました。

平田:なるほど。山崎さんにとって彼女は「無条件の肯定」をくれる存在なんですね。

山崎:最後はすごく具体的ですが、マザーハウスという会社そのものです。マザーハウスという名前には「第二の家」という意味が込められているのですが、働く仲間と家族的な絆を持つ意思が宿る、共同体としての会社でありたいと思っています。代表の山口がミッションオリエンテッドな人間なので、僕はどちらかというとマザーハウスの「あり方」についてずっと模索をしてきた。それは、僕がほしかった居場所を作ってきたということなんでしょうね。

どんなに成功しても、弱さがあることを受け入れる

山崎:結局は、どんなに成功しても、やっぱり「弱さ」があるということを受け入れなければいけないんだと思うんですよね。僕は社会的にいろんなことやっていけば自分がもっと強くなれると思ったけど、全然変わらなかった。今でもすごく脆いなあと思っています。

だから、社会的成功とか自分の夢の成功では満たされない何かがあるということを受け入れて、自分の家族や大事な人、ローカルな繋がりに対して向き合い続ける、人間的成長みたいなものが生きるためには大事なんだなと本当に思います。弱き自分を受け入れてくれたり、弱き自分を可能性として受け止めてくれる人が周囲にいることがすごく大事。

平田:やっぱり他者が必要ですよね。1人じゃ駄目。

山崎:そうですね。この社会って、パワーを吸い取る場所がいっぱいあるんですよ。すぐに心を潰されてしまうようなものがたくさんある中で、自分や相手の可能性を信じられる場所を作ること。少し環境が変わるだけで、人生が180度変わる人がたくさんいると思う。だから僕は、それを何とか作っていきたいって思っちゃうんですよね。

僕は20代前半の時なんて、自分の可能性をこれっぽちも信じてなかったから、同じような境遇にいる若い人たちの苦しみがよくわかります。

でも、若い人たちには意外と「人生って長いんだよ」と伝えてあげたい。今の若い人たちってみんなすごく焦ってるような気がするんです。自分の幸せ、やりたいことを早く見つけなきゃいけないと思っていたり。でもね、意外と人生長いしいろんな出会いがあるし、きっとみんな大丈夫だよと言いたい。もっと純粋に生きてほしいし、いろんなことに興味を持って動いてほしいと思う。街へ出ようって。やっぱり人生は豊かだよ。そう思いたいし、思える人が増えていけばいいなと願っています。

あかしゆか

1992年生まれ、京都出身。大学時代に本屋で働いた経験から、文章に関わる仕事がしたいと編集者を目指すように。 現在はウェブ・紙問わず、フリーランスの編集者・ライターとして活動をしている。2020年から東京と岡山の2拠点生活をはじめ、2021年4月、瀬戸内海にて本屋「aru」をオープン。

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