
オリジナル解体新書/2.ウール靴下編
- 執筆:平田はる香
一度は断られた靴下作り
前回のオリジナル解体新書に少しだけウール靴下のことを書いたが、2012年に初めてパン以外のオリジナル商品を工場と作ったのが、この湯たんぽみたいに暖かいウール靴下だった。

長野県東御市(とうみし)の冬はとにかく寒い。晴天率が高く冬でも青空が広がり、澄んだ空気は山々を美しく輝かせるが、雪も殆ど降らない代わりに、ひどい時は気温がマイナス15度まで下がってしまう。これには驚いた。引っ越してきたばかりの20年ほど前は、今までに体験したことのない寒さをどう防寒したら良いのか全くわからず、途方に暮れてしまった。
まず始めたのが重ね着。薄手のウールの下着をインナーに着て、何枚か重ね着した後に最後にダウンで風をシャットアウトする。ボトムスの下にもタイツを重ねたのは良いものの、足元がどうしてもスースーしてしまい、ウールの靴下を色んなところで買い求めて履いていた。
だが、ウールの靴下を探してみるもなかなか良いのが見つからない。ウール100%のものはチクチクするものが多く私には合わなかった。チクチクしないものは逆に破れやすくてすぐに穴が空いてしまう。ウールの混率が高く破れにくいものをアウトドアメーカーで探してみて履いてみると、今度は吸湿性が悪くて靴の中で蒸れてしまう。どうにもこうにも気に入らない。
寒い地方で暮らしている人たちは、皆どうしているのだろう?困っているのではないだろうか。これを自社で開発してみたらどうだろうか?とふと思った。パンは自分で作ったけれど、靴下は自分では作れない。こういう時はどうしたら良いのだろうか?当時はOEMという言葉も一般的ではなく、工場をもたない自分が物を作って売るという構造がわからなかった。そういう時は、知っている人に聞いてみよう!と早速、取引のあったシルクふぁみりぃに電話することにしてみた。

わざわざで長年の人気を誇る、腹巻や5本指ソックスを作っているのがシルクふぁみりぃ。
シルクふぁみりぃの代表の桐生さんが電話に出てくださり、こういう商品を作ってみたいのですが、一緒に作ってもらうことはできますでしょうか?と相談すると、桐生さんは「長野と奈良では距離があるからものを一緒に作るのは大変かもしれないね。長野でよい靴下メーカーがあるから紹介するから、そこで作れなかったらまた相談してね。」とありがたいことに工場を紹介してくださった。それがその後、一緒に沢山のものづくりをしたタイコーだった。
タイコーに緊張しつつ電話をすると、現社長の神田一平さんにバッサリと一緒には作れないと言われてしまった。「小ロットの生産はやっていないし、他のメーカーで作った靴下にわざわざのロゴを入れて販売するのならできますよ。」と。その言葉で心に火がついてしまった。せっかく桐生さんに紹介していただいたのに、今ここで引き下がることはできない。一度工場に伺ってお話をする時間を1時間だけいただけませんか?とお伝えすると、渋々MTGの時間を設けてくれたのだった。
貯金をはたいて作った600足
MTGでは、私が今までに買ったウール靴下を10足以上袋に詰めて持っていった。この靴下はここがダメ、この靴下は糸が良くない、ひたすら履き潰した靴下を見せながら説明をした。プレゼンのやり方を当時はよくわかってなかった。自分の思っていることを素直に伝え、「だから私はこういう靴下を作りたい」と言うしかわからなかった。すると、一平さんは「やりましょう。何足でも作りますよ。」と笑顔で言ってくれたのだった。熱量が通じれば人は動いてくれるんだなと感動した瞬間だった。100足ほどの少ないロットでは生産を受けることはないと言っていたのに、100足でもよいと工場を案内してくれることになったのだった。

工場を案内してもらったことで、自分が言っていたことが無理難題だったということがよくわかった。タイコーは大手メーカーの靴下を生産しており、靴下の編み機もかなりの台数を動かしていてとても大きな工場だった。100足だけ作りたいと言ってダメだと言われたのは、工場を見れば一目瞭然で失礼なことだと理解できた。工場を出る時には、この会社に迷惑をかけないように、自分のできる最大限の生産数でオーダーしようと決めていた。
家に帰って口座残高を調べると、600足分くらいは作れそうだったので、600足でオーダーしたい旨を伝えると一平さんはとても驚いて大丈夫?と心配してくれた。大丈夫です!と言いながら大丈夫じゃないけど、受けてくれた気持ちに答えたいという気持ちが強く納得したものを作ってしっかり売れるようにがんばろうと思った。私が作りたいと言った靴下は、よい糸を沢山使って丈夫に編む。だからコストがかなりかかる。販売価格は三千円を超えてしまう。それを600足、ものを作ったことのないパン屋が言っているのだから心配するのも当たり前だと思う。

結局、600足を編んでもらい、その靴下は2ヶ月間であっという間に完売した。怖さもあったが、自信もあった。どこにも売っていない暖かさと快適さがこの靴下にはあると信じていたし、それを伝えることが自分にはできると思っていた。自分自身の冷えの悩みを解決したこの靴下は、他の人たちの悩みもきっと解決してくれる。それを一生懸命伝えればきっと大丈夫だろうと。
完売したことで来年も生産できることになった。そしてタイコーさんに「これから平田さんが作りたいと思ったものは、何でもうちで作るよ」と言ってもらうことができたのだった。その後のわざわざにとって素晴らしい学びの多い体験となり、数々のオリジナル商品が生まれるきっかけとなった出来事だった。

ウール靴下へのこだわり
冒頭にも述べた通り、この靴下に込めたかったのは以下の3点だった。
- 暖かさと吸湿性があること
- シンプルでかわいいデザイン
- ある程度の丈夫さ
まず1を実現するためにウールの糸をどれにするか?という選択があったのだが、通常靴下では使わないセーターなどに使う高級ウール糸を使うことにした。靴下によく使われるウール糸は、丈夫さを重視するためゴワゴワしたものが多く、それがチクチクとした肌触りになっていたのが気になった。選んだ糸は、滑らかでとても肌触りのよいものにしたのだが、それが3の丈夫さを失うことにもなるのが課題だった。でも肌に直接触れるものなので、肌触りがよいことは重視したかった。
また、サイズはレディースとメンズの2サイズ区切りでなく2cm刻みで3サイズ展開にすることにした。伸びるということは穴が空きやすいということを助長するからである。

ウールの糸は摩擦に弱く切れやすい。その特性が穴あきに繋がるから、靴下のような摩擦の多い商品には使わないということが、開発段階でよくわかった。それこそが、私が欲しがるような暖かくて柔らかく丈夫であるという靴下が市場に見当たらない理由であった。でもそれがどうしても欲しい。幸いタイコーはアウトドアメーカーやスポーツブランドの靴下を主に手がける工場だ。補強や足をどうやってホールドすると歩きやすいかというような構造を考えるのには、プロ中のプロだった。何度も相談して、ナイロン糸でどうやって補強するかを話し合いテストしていった。

売り出した初期にお客様からクレームが何度もきた。こんなに高いのにどうしてこんなにすぐに破けるの?とお叱りをいただいた。お客様から預かった穴の空いた靴下をタイコーに持っていき相談をすることを繰り返した。穴の空きやすい場所には共通点があった。力のかかるかかとと親指部分、そして、靴との摩擦が起きやすいくるぶしの部分、穴の空きやすいポイントを絞り込み補強糸を回して改良を繰り返した。今のモデルは、ウールのわりに穴が空きにくいという状態になったと思う。
ウールの混率をあげると穴が空きやすくなるし、かといってウールの混率を下げて化学繊維を増やしていくと穴は空きにくくなるが、ウールの特性でもある吸湿性が消され、汗をかいた後に靴下内で蒸れるという現象を起こしてしまう。混率をどのくらいでコントロールするかも課題があった。
そして、デザインはざっくりと手編みのような質感を活かす太めのリブでいこうと決めていたのだが、2年後にリブだけでなくもっとかわいらしいアラン編みの靴下も欲しいねとなり、アランウール靴下も誕生した。

左がアラン編みで、右がリブ編み。

リブウール靴下よりも見た目がかわいらしいので、パンツの裾から魅せるように履くととてもいい感じだ。色も年毎に少しずつバリエーションを変えながら、バージョンアップしている。深めのピンクは毎年大人気。私もついついピンクを買ってしまう。

こうやって試行錯誤を繰り返し、ちょうどいいを探していったのが今のウール靴下となっている。ウール100%にしなかったわけもあるし、科学と天然のいいところ取りをした最高の靴下になったと自負している。
パッケージも3回リニューアルしている。最初はパンの小麦粉の袋を再利用してパン屋が作っているということを遠回しに伝えようとしたけどわかりにくいということになり、こだわりの蘊蓄をこめた帯にリニューアル。その後、現在わざわざのオリジナル商品のパッケージデザインを全監修していただいている岡本健デザイン事務所に、デザインしてもらい現行の形になった。

左:小麦粉の袋で作ったパッケージ、右:蘊蓄を書き連ねる形でリニューアル。

現行パッケージがこちら。わざわざオリジナルの全商品で統一性を持たせている。
これで誰にプレゼントしても恥ずかしくない素敵な商品になった。手にとって履いてもらえたらとても嬉しい。暖かさとかわいさ、両方持ってます。
2万円以上のお買い物でプレゼント中です

わざわざオリジナルの冬の定番「湯たんぽみたいなリブウール靴下」のあたたかさを、もっと沢山の方に実感していただきたい!という思いを込めまして、この度リブウール靴下のブラックを、プレゼント用に数量限定でご用意いたしました。
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