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オリジナル解体新書/3.パン屋のTシャツ編

オリジナル解体新書/3.パン屋のTシャツ編

この連載は、わざわざのオリジナル商品の全ての開発者でありわざわざ創業者の平田はる香が、開発を振り返り、製品を徹底的に深掘りする連載です。オリジナル製品に込められた思いや裏話などを一つずつ紐解き、皆さんにわざわざオリジナルについての理解と愛着を持ってもらえることをテーマにしています。

連載3回目に取り上げるのは、薪窯でパンを焼き続けているとすぐに破れてしまうTシャツに悩んでいたのがきっかけで開発したパン屋のTシャツです。何年も着続けられるほど頑丈で作業性の高いTシャツができるまでの製作秘話をお届けします。

  • 執筆:平田はる香
  • 撮影:若菜紘之

何度も破れてしまうTシャツ

オリジナル商品の第一弾のウール靴下に手応えを感じ、自分が欲しいもので世の中で見つからないものは、自社オリジナルで作っていこうという方針が明確に立てられた。世の中にないものは殆どもうないと思う。だけど、あれのこれがちょっと嫌だ、あれのこれが使いにくいというように、世の中にあるものがちょっと自分には合わないということはよくある。そんなものをわざわざ開発する、それがわざわざの商品開発だと思った。

平田が現役で厨房にいた頃の貴重な一枚。

2015年、私はまだパン屋の厨房でパンを焼いていた。一番困っていたのがパンを焼く時の服装だ。基本的に動きやすいボトムスとTシャツ、エプロンの組み合わせでパンを焼いていたが、困ったことにエプロンもTシャツもすぐに破れてしまう。わざわざは、薪窯でパンを焼く。毎朝、5時に厨房に行って前日に窯に入れて乾燥させておいた薪を取り出し、薪窯に火をつける。薪を運び、火をつけ、パンを捏ね、成形し、発酵させ、焼く。1日中動きまわり、熱と粉と水にまみれ洗濯をする。それを繰り返すとすぐにエプロンとTシャツの袖口が破れてしまう。とにかく熱への耐久性が欲しいと思った。

丈夫なものを探しまわり色々と試してみるがどれもこれもすぐに破れてしまう。丈夫さだけで言ったら、化繊がよかったのかもしれないけど、火で溶けるので危なかった。そして、薪窯から放たれる熱が死ぬほど暑く、夏は厨房は40度を超えてしまい、蒸れが気になった。となると通気性もある綿や麻、ウールなどの天然繊維がよい。化学繊維も使いどころではすごくいいとは思うんだけど、うちの厨房の仕事に合わないと感じていた。

形もなかなか合うものが見つからなかった。パン屋は頻繁に水を使うのだが、薪窯で焼く時に腕がガードされていないと火傷のリスクがある。水を使う時には袖をまくらねばならないが、半袖にすると火傷してしまう。これには本当に困った。手首だけ出ていて欲しかったがそんな中途半端な袖丈のTシャツは、殆ど売っていなかった。

そして、しゃがむ姿勢が頻繁にある。薪を取る。粉や水を運ぶ。立ったりしゃがんだりと忙しいのだが、市販のTシャツでちょうど腰が隠れるような長さのものがなかった。それから身幅も重要だ。体の可動域がちゃんと尊重されるTシャツが欲しい。長時間着ていると衣服の型による身体の拘束で疲れてしまう。肩が上がりにくい、後ろに振り向きにくい、どこかに引っかかる。気がついていない人も多いかもしれないけれど、意外と衣服に動きを制限されていることがある。そういうのは作業着として向いていない。

探しても探しても見つからない。何度もこれならいいかなと思ったものが破れてしまい、これは作るしかないなと思った。Tシャツはどうやって作ったらいいのだろう?と考えた末に、うなぎの寝床の創業者の白水さんに連絡をすることにした。確かニット製品のオリジナルブランドで良い人がいると聞いていた。それがyohakuの渡辺さんとの出会いだった。

綿(わた)を服にするマジシャン

2015年は第2子を出産した年だった。臨月まで厨房に出入りして産後1ヶ月未満でもう働き始めており(褒められたものではなく当時はどうしようもなかった)、当時の記憶が曖昧だが、東京でのyohakuでの初回MTGに小さな赤ちゃんを連れて行ったのをよく覚えている。帰りの新幹線が予約が取れず自由席にしたら座ることができず、混雑の中で赤ちゃんを抱いて移動して泣き出さないか心配で、娘にも申し訳ないとひたすら懺悔の気持ちで、泣かずに頑張ってくれた娘にありがとうと感謝をした。

初めて会った渡辺さんはとても優しく、店舗を案内してもらった後に、yohakuの近くの喫茶店でひたすらTシャツや綿の話をしたと思う。記憶が娘に乗っ取られており、たいそう盛り上がったことは覚えているが、渡辺さんが綿に超絶に詳しいということしか覚えておらず、子育てと仕事を両立させようとすると、記憶は子どもに乗っ取られるということはわかった。これを読んでくれている読者と渡辺さんに申し訳ない。

yohaku代表・渡辺展行さん

あれから10年が経過し、渡辺さんとは商品開発を通じて重ねた会話の歴史が積み重なり、時々会って話す友人となった。渡辺さんは綿の魔術師みたいだ。本人的にはきっと研究者と呼んでもらいたいと思っていると思うけど、「綿(わた)が服になる」、これはまるでマジックのようだと感じている。様々な工程を経て服ができるが、綿は紛れもなく農産物なのだ。渡辺さんは、最近は自社で綿の栽培にも取り組み商品化を行っている。

「watanabe cotton project」と題し、綿を育てている。(写真提供:yohaku)

この取り組みで作られた「種から作ったTシャツ」はわざわざでも取り扱い中。

着ている服を農産物だと感じたことがある人はどれほどいることだろう。畑から栽培された野菜が調理され口に入ると、野菜が農産物であるという想像は容易い。でも、綿は確かに畑で栽培されている。収穫された綿(わた)が紡績され糸になり、布になり衣服になって、身につけるものになるという過程は忘れられているような気がする。渡辺さんは、そういう過程を全て表現しようとしていて、とても尊敬している。

やりたいことは決まっていた。とにかく丈夫で動きやすいTシャツ。Tシャツは星の数ほどあれど耐久性に絞って作られたTシャツはそうそうない。それがパン屋の作るべきTシャツだと思った。そこに渡辺さんの知識を入れてもらい、ロングセラーになるTシャツを目指したいと考えたのだった。

全ての働く人々へ

前述の悩みの解決を込めたパン屋のTシャツに込めたかったのは以下の5点だった。

  1. 丈夫であること
  2. 水仕事の時に袖をまくる必要性がないこと
  3. 屈んだ時に背中が見えないこと
  4. 回転するような動きの時に服が邪魔しないこと
  5. ユニセックスで着られること

渡辺さんと話し合い、1の丈夫さは超度詰の生地(つまりはものすごく目が詰まっている)を編み、布から作ることになった。パン屋のTシャツの生地は和歌山県の工場で編まれており、0%の縮率となっている。洗濯しても全く縮まない。目が詰まっているので摩擦にも熱にも強く簡単には破れないのだ。

2の水仕事でまくる必要性のない長さは7分袖で決まった。これなら手首は出ているので水を使う際に一つ余分な動作を消すことができる。3,4,5は何度もやりとりした末に、まずラグランスリーブで袖をつけることに決定した。ラグランスリーブにすると肩の位置が固定化しないため、肩幅によって合わないという現象が少なくなる。どんな肩幅の方にも窮屈な形にならず、腕の可動域も広がり動きやすい。そして、身幅を広げ少し裾広がりになるようにパターンを作ってもらった。

それに合わせて首回りをどうするか?をかなり調整した。ボートネックとラグランスリーブの相性が悪く、体型によっては首を圧迫して辛くなってしまったりと、不具合が出てきてしまった。少し首回りを開け、空きが気になる人には、インナーにTシャツやタートルネックを合わせてもらうように案内することになった。

現在は1から6までのサイズ展開で、身長150cm~180cmの方まで対応する多くの人に愛されている。厨房での着用は抜群で、わざわざの厨房だけでなく、多くのレストランやカフェなどで制服として採用され、働く全ての人々に愛される商品となった。

腕を上げる動作でも、窮屈さを感じない形。

水回りでもパッと作業に取り掛かれるのは、この袖の長さだからこそ。

今や様々な職業の方がユニフォームとして採用してくださっている。

なんと2016年10月リリースで12,266枚生産!

2016年10月に販売開始されたパン屋のTシャツは、お陰様で9年をかけ12,266枚が生産・販売された。カラーも毎年追加され、宝島染工さんや金井工芸さんにご協力をお願いし、草木染めモデルなども定期的にリリースされている。年に1回の染め替えのイベントでは、経年したパン屋のTシャツの染め替えも行ってきた。生地と縫製が丈夫なので、何年経ってもいい感じになる。

現在発売中の草木染めモデル(濃藍)、入荷するなり瞬く間にほぼ完売に。

左が草木染めモデル(濃藍)の新品で、右は6年着用したもの。ちなみに次回の染め替えイベント・宝島染工展は2026年6月予定で、最新情報は実店舗・問touのInstagramでお知らせしています

左が2年着用、右は新品。通常版の染めだと色はほぼ変わらない。首元がよれてこないので古さは感じさせないが、生地の風合いがくったりといい感じに。

現在は9色展開で、去年からスタートしたもも色も好調だ。色も形も沢山の人がこれが好きとなるように、沢山の方の好みに合わせたいと思って作っている。

革のジャケットやデニムを合わせて格好良く。

度詰めの生地が風を通しにくく、重ね着で使うと安心感のある暖かさ。

老若男女問わず、着やすいデザインを心掛けた。

左から サイズ1(身長152cm)、サイズ3(身長158cm)、サイズ2(身長159cm)、サイズ5(身長165cm)、サイズ4(身長176cm)、サイズ5(身長180cm)、サイズ5(身長180cm)

9年が経過して信じられないことだけど、9年前に作ったものが未だ現役だったりして、丈夫さにも程があるなと感じているけど、時々飽きて箪笥の中で眠って、時々あれを久々に着てみようかなんて気持ちになって引っ張り出して着てみていい感じ。

来年は念願のボーダーを仕込んでいる。以前からずっとやりたかったものの、ラグランスリーブとボーダーの相性が悪く断念していたのだけど、最適解を見つけて商品開発をしているので楽しみにしていてほしい!

肩からかけているのがボーダーの試作品。時間がかかっても妥協しないのがわざわざらしさかと。

パン屋のTシャツを着ると働くぞという気持ちになる。最近はちょっと大きめサイズが好みで、今度また3のオートミールを久々に買おうかなと思ってる。飽きないTシャツで本当にいいのを作ったなと思ってます。ぜひお手にとってご覧ください。

平田はる香

2009年長野県東御市の山の上にパンと日用品の店「わざわざ」を一人で開業。2017年に株式会社わざわざ設立。2019年東御市内に喫茶/ギャラリー/本屋「問tou」を出店。2023年度に3,4店舗目となるコンビニ型店舗「わざマート」、体験型施設「よき生活研究所」を同市内に出店。また初の著作「山のパン屋に人が集まるわけ」が2023年にサイボウズ式ブックスより出版された。趣味はボルダリングとよき生活と将棋。

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