完璧な食品などありえない - 油の話
- 執筆:わざわざ編集部
- 撮影:若菜紘之
- 編集:すずきくん
完璧な食品などありえない - 油の話
情報がありすぎて難しい。
わざわざでは角食の焼型に国産の圧搾式菜種油を塗っています。かつて一度コストを下げようと目論み、安いサラダ油を塗ってみたこともありましたが、その型で焼かれたパンの表面に強い苦味を感じ、吐き出しました。そして一つの素材も妥協してはいけないと強く感じたのです。
今日は少し油の話を書いてみたいと思います。以前、菜種油についてご質問をいただいたことがありました。
Q.菜種油は、加熱に不向きであると何かで見たことがあります。成分に含まれるエルシン酸というのがあまり良いものではないという記事でした。今は、いろんな情報がありすぎてふるいにかけて見極めるのが難しいです…。
A.菜種油に含まれるエルシン酸という成分は、在来種の菜種に多く含まれるもので、エルシン酸の多量摂取は心臓障害を引き起こすとされてきました。現在はエルシン酸が含まれない種子が開発され、多くの栽培に役立てられています。
この質問で私が一番興味を感じたことは「いろんな情報がありすぎてふるいにかけて見極めるのが難しい」というメッセージです。
世の中には様々な分野で様々な研究がなされ、日々新しい情報が飛び交っています。その中で人々は自分にフィットした情報を取り入れて生きているわけですが、その感覚は十人十色です。私もこの質問を頂いてエルシン酸の問題を初めて知りましたが、調べてみると本当にたくさんのサイトがこの問題を解いていました。
油は2種類。
皆さんがいつも食べている油には大きく分けて2種類の油があります。飽和脂肪酸が多く含まれるものと不飽和脂肪酸が多く含まれるものです。こう言うと非常に難しく感じるかもしれませんが、話は至ってシンプルです。
固まっている油か、液体の油か。その2種類です。固まってる=飽和脂肪酸が多く含まれる、液体=不飽和脂肪酸が多く含まれる、です。固まってる油とはラード、バター、マーガリン、ショートニングなど。液体の油とは、ごま油、サラダ油、オリーブオイル、菜種油、えごま油など。
固まっている/いないという違いの他、もうひとつ大きく違う点があります。お気づきでしょうか?
動物性か、植物性かです。固まってる油(飽和脂肪酸多し)は動物性が主体で、液体(不飽和脂肪酸)は植物性が主体です。飽和脂肪酸が多く含まれる油をさらに分類すると、人工的に作られた油と自然の動物性の油の2種類があります。バターやラードはご存知のように動物の恵みを頂いて作られた油です。
戦時中にバターが不足したため「バターのようなもの」を大量に作るべく、バターの分子構造に水素を添加してバターの模造品を作ったのが、マーガリンの始まりです。近年、そうやって人工的に作った分子構造のトランス脂肪酸が健康を害するという問題が表面化し、米国では2018年6月に、トランス脂肪酸を含む部分水素添加油脂の使用規制が始まりました。この動きはどんどん世界中に広がっています。
また、飽和脂肪酸が含まれる油の摂取過剰は、動脈硬化や心臓疾患を起こしやすいとも言われています。バターなどの油は、普段は固体で熱をかけると溶け出します。融点が低いというその特性が血中コレステロール値を上げ、体内にたまりやすいという欠点を持っています。
摂取して分解されるスピードよりも多く油を摂取すれば、上記のような病気を引き起こす可能性が高まることを想像するのは容易なこと。人間の体の不調は、食べた食物と密接に関わっています。
体に良いの?悪いの?
こうやって書くと、多くの人が「不飽和脂肪酸が体に良い!」となることでしょうが、そうでもありません。液体の油は空気に触れる面積が圧倒的に多いので、不飽和脂肪酸より酸化しやすく、早い時間で劣化していきます。酸化した油には活性酸素が多く含まれ、癌や生活習慣病を引き起こす原因であるとも言われています。
また、多くの液体油は絞る際に薬品を添加して油を分離させています。絞るという古来のやり方をすると、時間も労力もかかりますし無駄が出ます。安く販売するためにはコストはかけられませんから、そういうことをやります。
ここまでくると、油そのものの存在が悪のように思えて、食べることを拒む人が出てきます。しかし油は体に必要です。冬場に水仕事が重なると乾燥で手が酷く荒れて、慌ててクリームを塗りますね。体に油分が足りないと色々と不都合が起こります。
唇が常に乾燥でむけてくる時は、最近の食生活を振り返り、水分や油分が足りているか考えて補給すればよいのです。便通が悪くなっているのであれば、食物繊維を多く含んだものを食べることを心がけます。常に体の声に耳を傾けていれば、難しいことではありません。今日の不調は昨日の不摂生を疑ってみることから始めます。
油が体によいという情報も多々あります。オリーブオイルが糖尿病にいいとか消化吸収がよくなるとか、肌にいいとか、菜種油はバターよりカロリーが低いからお菓子に使うとダイエットにいいとか、バターはおいしいとか…。上げればキリがありません。
一つのルールを決めた。
物事には2つの側面が必ずあります。黒と白、良いと悪い、陰と陽。良い面があれば、必ず悪い面もあるのです。完成されたものなどどこにもありません。一つの側面だけをクローズアップして「これは何に効く」とか「これが体に悪い」なんて、全く無意味なことです。
物事を決定する事項は必ずいくつもあり、全てが生じて総合的に結論が出ます。一つだけが悪く、一つだけがよいという事は起こり得ないのです。一つの悪を排除しようとすると、必ず無理が生じ、どこかに亀裂が走ります。要はバランス感覚です。
大事なことは、細かいことを知りながらそこに集中せず、物事を俯瞰で大きく見ること。そのためにもまずは知ることが必要です。そんなこんなで、うちは一つのルールを決めています。「質のいい材料から、きちんと作られた油を適量摂ること」。それだけ。四つ葉の発酵バターが好きなので、毎日パンに塗って食べてます。時々パスタにする時は惜しげもなくオーガニックのオリーブオイルを使います。お金がない時は油は使いません、高いから。そんくらいのもんです。
選び方のヒント。
スーパーで油の原材料を見てみましょうか。横に書いてある低脂肪とかヘルシーなんて言葉はスルーしてくださいね。「食用精製加工油脂、乳化剤、酸化防止剤(ビタミンE)」こんなの論外です。本物の油は「菜種」とか「オリーブ」とか「生乳」とか、私達の想像の範囲内のモノしか書いてありません。自分の想像力の範囲内でわかるもの買いましょう。
これは体に良いと聞いた、悪いと聞いた、これが入っているからいけないという情報は、まず全て捨てましょう。知っているものだけで作られたものを買えばよいのです。そういったものは、身近にあるものでお母さんが子供のために作った、手作りの食品と同じ。おばあちゃんが仕込んだ味噌や醤油と同じです。誰かがあなたを思って心を込めて作ったものです。
これは調味料全般、食品全般に言えることです。味噌の原材料は「大豆、塩、麹」、醤油も「大豆、塩、小麦」なんてのは想像できますね。「脱脂加工大豆、醸造アルコール、調味料」なんてのはよくわからないですね。わかるもので作っているものは安心です。
最後にもう一つおせっかいを。値段が高い=質が良いものではありません。高価なものにもいい加減なものは存在します。きちんと裏をひっくり返してみることで避けられますので、値段を目安にするのはやめましょう。
話がそれましたが、皆さんも食品のおばけに注意を払いつつ、時には脱線した自分を許しながら、のんびり気楽に生きましょうね!