ファッションの概念はもう変わった。
- 執筆:平田はる香
- 撮影:若菜紘之
- 編集:すずきくん
目次
価値観が変わっていった
小学生の時から一人で服を選んで買っていた。おばあちゃんが変な服を買ってくるのが嫌で、自分で買うからお金をくれと言って、近所のスーパーでお金をもらって好きな服を買った。そうやって自分で選んだ服は本当に気に入って擦り切れるまで着ていた。小学生の頃はシグマの白いスニーカーばっかり履いた。
白と黒が一番かっこいいと思っていたので、シグマのスニーカーに合わせたのは、白のハイソックスでアーノルドパーマーの傘のマークがワンポイントで入っているのだけ、好んで履いた。帽子は白と黒が入っているという理由から、最高にかっこいいと思っていた阪神の帽子をいつもかぶっていた。そんな小学生だった私がこれになります。
その後、中学生の時にmc sisterという雑誌の虜になり、トラッドやカジュアルの世界に傾倒した。高校生になるとSPURや流行通信という雑誌のハイファッションに憧れを持ち、19でファッション系の専門学校に通い、ハイブランドの服をバイトしながら無理やり購入した。
当時、私は運良く雑誌の編集部でアルバイトをすることができ、3年間ファッション雑誌でアルバイトをした。雑誌の作られ方をその時に学んで、自分が盲目的に信じていたその世界は、誰かによって作為的に作られていることを痛感した(めっちゃ面白かったけど)。
そして、無理に気がついて経済的に優しい古着を着たり、シンプルで自分に似合う服を探すようになった。当時、雑誌を切り抜いて、自分がかっこいいと思うをまとめていた資料がこれになります。
30代になると子供が生まれ仕事と子育ての両立で必死だった。赤ん坊のよだれとお乳まみれになるので、とにかく汚れてもいい服で、動きやすいことを重要視して服を選ぶようになった。ファッションは自己表現という概念が、ここで崩れ去った。
この頃は「服は機能的であるべきだ」という考えが最も際立った年代だと思う。40代になって少しだけ子供の手が離れ、ファッションにもう一度向き合ってもいいかなという気持ちになったのだった。
あなたは今、どんな服を着たいですか?
本当に心に向き合って考えてみてください。オシャレは我慢してするものとか、モテるにはこれとか、流行っているからとか、他人の目線を捨てて、本当に自分が着たいものを考えてみてください。
私にとって服選びに関して一番大事なものが「着心地」です。まず着心地がよいことが自分らしくいられる一つの重要なファクターになります。着心地が悪い服のことを考えてみてください。
暑い日に蒸れる、寒い日に寒い、窮屈だったり、体に締め付けた跡が残ったり、あせもができたり、日々生活する中で不快になるその原因は、何気なく選んでいるその服ではないですか?
2つの基準を満たしているか
服には2つの側面があります。
1.身を守る →快適性や着心地など自分が感じるもの 2.印象を作る →趣味・志向など他者からの見た目、自分がこうありたい姿
この2つの基準をちゃんと満たして選べている人は少ないと思います。なぜならファッションは常に「2.印象を作る」の思考によって作られてきたから。ファッションの世界はコレクションがまずあり、そこから流行が降りてくる形で作られてきました。
見知らぬ誰かが作ったかっこいいの価値基準を享受するのがファッションの世界でした。コレクションからファッション関係者へ、そこからアパレルに伝わり、その後に雑誌に掲載され、私たちの手元に情報が来るというのがスタンダードでした。だから、私たちは常に誰かがかっこいいと定義していたものを、数年後に買うということを繰り返していたのです。
しかし、時代はどんどん変化しています。ファストファッションが出てきたことで、安く早く流行に乗ったものを着られるようになったり、定番商品も安く簡単に手に入れられるようになりました。価値観は多様化し、様々なジャンルの服が着られるようになっています。
いま私が提案したいことは、この両局面からよいと思う服の選び方。着心地で自己の健全な生活を確保し、さらに見た目の印象を作っていく。こうありたいと願う人物像に、服で近づけていくこともできるのです。
服は必要なもので、私たちは毎日着なくてはなりません。快適さは必要不可欠であり、さらに自分らしくあるために見た目を形作ることを知ってもらえたら嬉しいです。
呪縛を取り払いたい
ファッションはずっと好きで、雑誌などを読み込んだ知識やコレクションラインを見続けた結果、私にはかなり固いファッション志向が形成されていました。特に縫製やディティールにこだわりがあり、より伝統的に作られていた方がかっこいいという考えからなかなか離れることができませんでした。
昔ながらのボタンフライが好きでしたし、トイレにギリギリで駆け込んでチビリそうになっても、お洒落は我慢するものと思い込んでいました。だけど、30代の子育てと開業が重なって、忙しさが尋常でなくなった時にやっとその殻を破ることができました。着心地がいいのが一番。それでいておしゃれもできることに段々と気がついていったのです。
だからみんなの「おしゃれは我慢」の呪縛を、できることなら取り払ってしまいたいと思っています。着ていて気持ちがよいと感じるサイズ、素材、形とはどんなものなのか、暑い、寒いなどの季節による違いはどうやって緩和するべきなのか。機能性を理解してから、デザインや見た目の部分を補填していくという服選びの仕方があります。
もう一度復習しましょう。まず機能性・快適性を満たす服を選んでから、その中で印象を作る。それがおすすめの服の選び方です。
服には二つの側面があります。 1.身を守る→快適性や着心地など自分が感じるもの ↓ 上記条件を満たしたものの中から 2.印象を作る→趣味・志向など他者からの見た目、自分がこうありたい姿
ボトムスを履き比べてみました。
機能性・快適性を満たしつつ、印象を作る。そこで「もんぺ」です。うなぎの寝床のもんぺは、もんぺの動きやすさはそのままに、“現代風”にスリム化した型で作られているのが特徴です。
一般的なジーンズともんぺを穿き比べてみます。どちらも私物でジャストサイズのものを穿いています。簡単に着心地を表現すると、以下のような気持ちです。
・ ジーンズは、体を型に入れる。
・ もんぺは、体に型が合わせる。
もんぺに出会ってから、あれほど好きだったジーンズを穿くことは本当に少なくなりました。理由を見ていきましょう。
上の写真はジーンズを穿いています。
こちらはわざわざオリジナルもんぺ(デニム)を着用しています。実際の見た目にはさほど変わりはないのではないでしょうか。あぁジーンズだな、あぁなんかのパンツだなという印象でしょう。
ジーンズで座ってみました。お腹、お尻、太もも、様々な場所が引きつって圧迫されています。このジーンズは29インチでかなり緩いサイジングのものを穿いていますが、立っているとそこまで感じなかった窮屈さが、座ると急激に圧迫感を感じて苦しい感じがします。とはいえ、これくらいなら大丈夫かなと言う気もしていました。
だけどもんぺに穿き替えて座った瞬間に、天国かと思いました。全く圧迫される箇所がありません。ジーンズから穿き替えるともう裸に近い感覚です。楽すぎる。
しゃがんでみました。これはもう絶句です…。雑巾掛けなんて絶対したくないですし、お金を落としても拾いたくないレベルで不快を感じます。締め付けがすごい。ずっとかがんでいたら痺れるかもしれません。
もんぺに穿き替えました。いくらでも雑巾かけれられます。はいよ!ささっとかけちゃうよ!って感じです。楽々~~。
改めて、遠目に見ればその見た目はほとんど変わらないのに、快適性能は全く違います。みんな、目を覚ますんだ。「じゃあストレッチならいいんでしょ?」という声もあるかと思いますが、結局、肌にどれだけ触れるかが快適と不快を分けるのです。
常に肌に密着している服を着ていると、体に風が届かないので非常に暑く感じます。また汗もそのまま服にしみていくので、汗じみの原因になります。もんぺと肌の間には少し距離が生まれています。抜群のサイジングで生まれた空間が、着心地のよさを感じさせるのです。
ジーンズは、概念だけ活かしたらいい
ジーンズは鉱山で働く鉱夫の悩みを解決したワークパンツでした。ハードな仕事をする鉱夫の作業に耐えうることが必要だったので、丈夫ということが最優先され作られたパンツです。
私たちは今、鉱山を掘るようなハードワークを殆どしないのです。かっこいい=印象を作るという2番の志向だけでジーンズを選んできたことが、そもそも間違いだったと思います。
夏にジーンズを穿くなんて、もうそんなことから卒業してもらいたいなぁ(※)。哲学で穿いているならいいんですよ。もし惰性でジーンズを穿いている人がいたら、次のパンツはもんぺに挑戦してもらいたいです。
※編註:投稿当時からさらに時が経ち、快適性を確保しつつその概念を上手く活かしたデニムがわざわざにも登場することとなります。ジーンズの醍醐味を味わうために、穿き心地を犠牲する必要はないということ。時代はひとつずつ変わっていきますね。
変幻自在のダイバーシティ性
ファッションにはナチュラル系、コンサバ系、ストリート系、トラディショナル系、カジュアル系、モード系など様々なジャンルがありますね。服は情報なので、好きなジャンルを身に付けることによって「私はこういうものが趣味です」と外に常に発信していることになります。
さて、話をもんぺに戻します。似たような趣向の人が集まれば、必然的に服装が似てくる傾向がありますが、もんぺには全くその傾向がありません。様々な趣向の方が着ることができるのです。特筆すべき、そのダイバーシティ性。どのジャンルになることもできる。これが本当にすごいんです。
以上、全てもんぺでした!中には「まさかもんぺとは思わない」ものもあったのではないでしょうか。もんぺという型ひとつで、かなり広範囲の着こなしができるはずです。