
80→9,240。わざわざのシュトレン、増産の記録
- 執筆:わざわざ編集部
- 撮影:若菜紘之
目次
80:甘くないシュトレンを作ってみたくて。
2009年のこと。わざわざ代表の平田はる香がシュトレンというお菓子を知り「自分でも作ってみたい」と思ったことから、わざわざのシュトレンが始まりました。
一般的なシュトレンはとにかく甘いお菓子です。しかし平田は甘いものが苦手なので、シュトレンを自分で作るにあたって「砂糖を使わないこと」「他にない、オリジナリティあふれるものにすること」という2つのルールを課しました。
もしできるなら、卵やバターも使わずに作れないだろうか?そんなことを考えながら手探りでレシピを組み立て、最初の年に焼いたのは80本でした。
出来上がったのは、見た目こそシュトレン。けれども一般的なものとはずいぶん違う仕上がりです。「これをシュトレンと呼んでいいのだろうか?」そんな一抹の不安を抱えながらのスタートでした。

2010年のシュトレンはこんな感じでした。
翌2010年は100本、2011年は220本。少しずつ本数を増やしながら、レシピを毎年のように調整しました。作って、食べて、また変えて。模索を続けていきました。

こちらは2011年のもの。長細い形は今のシュトレンに近いですね。

包装は今と全然違います。懐かしい…
400:薪窯で焼き始めてみた。
ひとつ目の転機が2012年にありました。それまでガスオーブンで焼いていたシュトレンを、試しにパンと同じ薪窯で焼いてみたのです。すると、生地がふんわり、しっとり!とてもおいしく焼けるので、以後は薪窯で焼くようになりました。
製造方法も工夫しました。これまでは週単位で行っていたドライフルーツの漬け込みを、製造期間のはじめにまとめて行うようにしました。生産効率が上がり、この年は前年のほぼ倍である400本を焼きました。
2009年に自分に課した「砂糖を使わない」「オリジナルのものを作る」というルールは間違っていなかった。そう思えるようになってきた一方で、やはり一般的なシュトレンとはまるっきり違うお菓子です。毎年販売を始めるたびに「今年も受け入れてもらえるだろうか」と緊張していました。
そんな心配をよそに、注文はどんどん増加。週に50本焼いても追いつきません。薪窯には一度に36本入れていましたが「もう少し入れられるんじゃないか」と、窯の使い方まで試行錯誤するようになりました。

窯入れは難しい作業です。今はこのペースでも、もっと上手く焼きたくて、常に向上心をもって窯入れと向き合っていました。

ちなみにこちらは2022年の窯入れ風景。同じ窯ですよ!あの頃からおよそ10年で、一度に60本まで入れられる技術をスタッフ一同身につけました。
2013年は600本。2014年は当初880本の予定でしたが、想定以上の注文を受け、急遽1,280本へ変更。スタッフにも毎日1時間ずつ残業をお願いしながら、できる限り需要に応えました。2015年には大型ミキサーを新調して1,600本へ。
一度に仕込める量を増やしたり、工程を組み替えたり、設備を見直したり。毎年のように何かしらを改善しながら、生産本数を少しずつ増やしていきました。
その一方で、シュトレンの製造面以外での課題も出てきました。例えば梱包・発送作業です。当時はすべて自分たちでしていましたが、店内だけでは場所が不足しつつあり、倉庫や事務所を新たに探す必要がありました。生産本数が増えるのは喜ばしいことではありながらも、製造以外の仕事にも影響が広がり、そのたびに新たな課題へ対処していく必要がありました。
2,600:真空パックで賞味期限が半年に。

2016年は2,000本。この年、シュトレンの包装に初めて真空パックを採用しました。というのも、この前年に関西地区へお届けしたシュトレンの一部に、カビが発生してしまったのです。
販売数が増えれば、発送する地域も広がります。長野県とは気温も湿度も違う場所へ、何百、何千本という商品を届けるようになった以上、これまで以上に厳密な品質管理が必要でした。そこで真空包装を導入するとともに、保存テストを始めます。
2016年12月に焼いたシュトレンを真空パックし、10本ほど常温で保管。1ヶ月、2ヶ月と時間を置きながら、順番に開封して状態を確認していきました。

そして最後まで残しておいた、約10ヶ月後の一本。恐る恐る開けて食べてみると、その味に驚きました。時間が経ったことでドライフルーツや生地の味が一体となり、製造直後とは違った滋味深さが生まれていたのです。
真空包装なら品質を保ちながら、長くおいしく食べてもらえる。保存テストを重ねた結果を受け、2017年からは賞味期限を半年に延長しました。
この年の生産数は2,600本。前年より600本増やしたものの、オンラインストアに1週間分の在庫を入れた途端、わずか3分で完売するような状況でした。「5,000本くらい焼けたら、いつでも買えるようになるのかな」。この頃から、そんなことを考え始めます。
たくさん売ることが目的ではありません。せっかく買いたいと思ってくださったのに、売り切れで買えずがっかりさせてしまう、そんな状態をできるだけなくしたいという思いが強まっていきました。

7,867:いつでも買えるようにしよう。
2018年は3,500本。ひとつしかない薪窯をフル稼働させ、ひたすらシュトレンを焼きました。前年のように販売開始直後に完売することはなくなりましたが、当時オンラインストアへ在庫を追加するのは週に1回。クリスマスが近づくにつれて注文は増え、次の在庫追加を待たずに売り切れることもありました。
買えない日は、まだある。それでも以前に比べれば、圧倒的に買いやすい状態にはなりました。

その後も、生産本数は少しずつ増えていきます。3,700、4,200、4,500と、6年かけてじわじわと5,000本に近づけていきました。
そして大きく本数を伸ばしたのが2025年です。その数、7,867本。かつて目標にしていた5,000本すら大きく越え、前年から一気に約3,300本増やす形となりました。
大きかったのは、製造開始時期を前倒ししたことです。限られた工房とひとつの薪窯で一日に作れる量には限界があります。ならば、一日に無理をしてたくさん作るのではなく、作る期間そのものを長くしようと考え、早い時期から焼き始めることにしました。
販売方法も変えました。これまでのように週に一度決まった数量だけをオンラインストアへ投入するのではなく、売り切れないよう、在庫を多めに補充していく方法にしました。その結果、12月に入るまでは在庫を切らすことなく、ようやく「欲しいときにいつでも買える」状態を整えることができました。
9,240、そして10,000へ。

2026年に焼くシュトレンは、9,240本を予定しています。まだまだ増産を続けていくのには理由があります。
というのも、実店舗「わざマート」が3店舗に増えたことで、わざわざのパン・お菓子全般の需要が急増しているのです。今年の夏からはパンの焼成日をこれまでの週4日から週6日へ増やして対応しています。シュトレンも皆様にしっかりお届けしたいので、前年より1,400本ほど多く作る計画にしました。
実は今、新しいパン工房の建築を進めていて、来年完成予定です。現在の工房がかなり手狭になってきていたので決断しましたが、大きな転機になりそうです。これで設備がさらに整って、体制もよりよい方向に変わっていくことでしょう。新しい工房での生産が始まれば、来年はいよいよシュトレンの生産数が10,000本を超えるかもしれません。

パンと日用品の店 わざわざ(休業中)に併設する形だった現在のパン工房。本当によく頑張ってくれて、思い入れがぎっしり詰まっています。
2009年、たった80本から始まったわざわざのシュトレン。
最初から「1万本作ろう」と考えていたわけではありません。注文が増えたら、どうすればもう少し作れるかを考える。品質に課題が見つかれば、包装や保存方法を見直す。売り切れてしまうなら、製造期間や販売方法を変えてみる。そうやって目の前のひとつひとつに向き合ってきた結果が今、9,240という数字になっているだけなのです。
そして何より、この18年間ずっと、毎年シュトレンを楽しみにしてくださる方々がいました。「今年も買いました」「毎年少しずつ食べるのが楽しみです」。感想をお聞きするたび、励みになっています。いつもありがとうございます。
生産数こそ大きく変わりましたが、シュトレンをひとつずつ作って届けることは、18年前から変わりません。これからも、丁寧に、わざわざのシュトレンを焼き続けていきます。今年もおいしく召し上がっていただけますように!







